研究概要 |
乳癌などの癌患者に放射線療法を行った場合,放射線に暴露された末梢神経の支配領域に痛み,しびれ,筋力低下を生じることが知られており,放射線誘発性末梢神経障害と呼ばれている.臨床症状から,この放射線誘発性末梢神経障害は神経の部分障害により生じるものと考えられているが,その機序は解明されておらず,治療に苦渋することが多い.本研究では,難治性である放射線誘発性末梢神経障害の動物モデルを確立し,作製された動物モデルを用いて,その発症機序や治療法の開発を行うことを目的とする.本年度はラット坐骨神経を用いて放射線誘発性末梢神経障害の動物モデルの作製を行った.先行実験で得られたデータを基に,本動物モデルでのX線照射量は90Gyとした.本研究では周囲軟部組織を鉛で覆いX線をラット坐骨神経のみへ照射した群と手術手技のみを行ったsham群の2群を作製し,放射線の神経への直接的な作用を検証した.機能評価として照射後4, 8, 12, 16, 20, 24週で SFI(Sciatic Functional Index)を計測したが,2群間に有意差は生じなかった.24週で行った電気生理学検査ではX線照射群はsham群と比べ有意に振幅の低下を認め,伝導障害が生じていることが示された.また,24週で行った組織学的検査でも,X線照射群で有意に軸索変性所見を認めた.これらの結果より,90GyのX線をラット坐骨神経に照射後24週で部分神経障害モデルを確立できることが示された.さらに,X線照射された神経の周囲にはsham群と比べ瘢痕組織が多く形成されていたことから,障害された神経自体から瘢痕化を誘導する何らかの因子が放出されている可能性が示唆された(これらの結果を論文で報告).以上の結果より,今後,本動物モデルを用いることで,放射線誘発性末梢神経障害のさらなる病態の解明と新しい治療法の開発が期待できる.
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