研究課題/領域番号 |
25861337
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤田 順之 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (30348685)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 椎間板 / 髄核 / HIF-1alpha / Syndecan4 / Sox9 / PHD |
研究概要 |
低酸素環境における椎間板髄核細胞の恒常性維持機構は完全には明らかにされていない。我々はこれまでに、線維輪、髄核を含む15種類のラットの組織のマイクロアレイ解析を行い、Syndecan4 (SDC4)が髄核において特異的に高発現している事を見出した。椎間板変性においてSDC4はNF-kappabによりその発現が制御され、Aggrecan分解に関与していることがすでに知られているが、椎間板変性が生じていない髄核でのSDC4の発現制御メカニズムおよびその役割については不明である。今回の研究の目的は低酸素性組織の椎間板髄核における SDC4の発現制御機構および機能を明らかにし、SDC4が組織恒常性の維持に関与しているか否かを検討することである。 ラット髄核細胞を低酸素培養したところ、SDC4の発現上昇がmRNAおよびタンパクレベルで認められた。ヒトSDC4プロモーターを用いたreporter assay においても低酸素培養にて有意に活性が上昇した。レンチウイルスを用いて髄核細胞にHIF-1alphaを恒常的に過剰発現させたところ、SDC4の発現は上昇し、逆にHIF-1alphaをknock downしたところ、SDC4の発現は減少した。更にHIF-1alpha のタンパク量を調節しているPHD2の発現をknock downしたところ、SDC4の発現は上昇した。SDC4の機能を評価するため、髄核細胞にGAGアンタゴニストを添加したところ、SOX9応答性Aggrecanプロモーターの活性が有意に上昇した。最後に、低酸素培養下にて髄核細胞でのSDC4の発現をknock downしたところ、SOX9のmRNAとタンパクにおける発現レベルの上昇が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の結果より、髄核細胞において SDC4の発現はPHD2/HIF-1alphaシステムにより制御されていることが判明した。更に興味深いことにSDC4はSox9の発現を介して軟骨性マトリックスAggrecanの発現調節を行っていることが分かった。本研究によってSDC4の髄核細胞における新たな役割が見出され、低酸素性組織髄核における恒常性維持のメカニズムの一部が解明され、目標の一部が達成できたと思われる。 今後、Sox9の発現を調節するBMPやWntシグナルとSDC-4との関係性をIn vitroにて明らかにし、SDC-4がSox9の発現制御する詳細なメカニズムを検討する予定である。更にIn vivoにおけるSDC-4の役割を明らかにするため、国内でavailableであるSDC-4ノックアウトマウスにおける椎間板組織を検討し、SDC-4の椎間板の組織恒常性維持機構への関与を明らかにしたい。SDC-4の発現制御は低酸素環境における転写因子HIF-1alphaに依存する一方で、炎症によってactivateされるNF-lkappabにもindependentに依存することが知られており(Wang J, 2011, J Biol Chem)、一つの分子に対して、二つの異なる発現制御機構が生理的条件と病理的条件の間でどのように使い分けされているのかを解明することは本研究にとって、今後の重要な検討課題であり、臨床上の治療開発への大きな手がかりとなると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らはこれまでに髄核細胞におけるHIFの発現制御メカニズムについて詳細に解析し、HIF、特にHIF-1alphaにおける発現は主に翻訳後のタンパク分解によって制御され、HIF Prolyl Hydroxylase (PHD)が重要な役割を担っており、特に髄核細胞においてPHD2がHIF-1alphaの分解における主なアイソフォームであることを明らかにした。またPHDs自身の発現は髄核細胞においては低酸素による制御を受けていることも報告した更に興味深いことに髄核細胞においてPHD3はPHD1やPHD2と比較して、TNF-alphaやIL-1beta等の炎症性サイトカインによってもその発現が著明に誘導され、その発現制御はNF-kappabシグナルを介していることも明らかにした。また逆にPHD3自身がNF-kappabのシグナルを調節してcatabolic factorであるMMP-13やADAMTS-5の発現制御、また軟骨特異的細胞外マトリックスであるAggrecanやType II collagenの発現調節にも関与していることが判明し、PHD3が炎症を伴う椎間板変性において重要な役割を担っている可能性が示唆された。これらの研究結果はHIFシグナルとNF-kappabシグナルがクロストークしていることを示唆しており、炎症と無血管組織での酸素濃度の関係、または炎症とHIFの関係を明らかにすることは椎間板変性に至るメカニズムの解明する上で大変有意義であると考える。現在、ラットにおける椎間板変性モデル作成には成功しており、現在、マウス尾椎変性モデルを作成中である。遺伝子改変マウス(MX-cre-LoxP-HIF-1alpha, col II-cre-LoxP-HIF-1alpha)も現在、交配、作成中であり、椎間板変性におけるHIF-1alphaの機能を検討する予定である。
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