研究課題/領域番号 |
25861339
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
宮本 阿礼 埼玉医科大学, 医学部, 研究員 (70634591)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 骨形成 / 骨系統疾患 / BMP / 進行性骨化性線維異形成症(FOP) / ALK2 |
研究概要 |
進行性骨化線維異形成症(Fibrodysplasia Ossifications Progressiva;FOP)は全身の骨格筋で異所性骨が形成される難治疾患である。典型的FOPでは筋損傷が急激な異所性骨形成を誘導するため、バイオプシーや手術などの侵襲的医療行為が禁忌であり、異所性骨形成における組織学的な研究が困難である。これは BMPのI型受容体である変異ALK2(R206H)の活性異常が原因とされている。 そこで、新たにCre-loxPシステムで誘導性にヒトALK2(R206H)を発現するTgマウスを樹立した。このマウスの後肢骨格筋組織から単核細胞を分離し、以下の実験に使用した。調節した細胞にCre DNA組換え酵素を発現するアデノウイルスを感染させる事で、mRNAおよびタンパクレベルでウイルスの用量依存的にヒトALK2(R206H)の発現を誘導させた。そして、ALK2の下流の転写因子Smad1/5を解析したところ、Smad1/5のリン酸化が誘導された。さらに、BMPの初期応答因子であるId1,Id2遺伝子の発現上昇も認められた。本研究によりin vitroでヒトALK2(R206H)による細胞内シグナルを解析できる新しい実験系を樹立することに成功した。また、近年様々な変異ALK2を持つ非典型的FOP患者が報告されている。我々は筋芽細胞C2C12細胞に典型的ヒトALK2 (R206H)または非典型的ヒトALK2 (G325A)をII型受容体と共発現させる事でFOPの発症メカニズムを解析した。典型的ヒトALK2(R206H)はBMPR-IIで活性されるのに対し、非典型的ヒトALK2 (G325A)は別のII型受容体であるActR-IIBにより活性化された。これよりII型受容体による変異ALK2の活性が、FOPにおける症状の多様性に関与する事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は典型的FOP発生機序解析のためのCre-loxPシステムで誘導性にヒトALK2(R206H)を発現するTgマウスを樹立し、in vitro でのFOPの実験系を確立した。これによりFOPを細胞、分子レベルで解析することが可能となった。この実験系によりヒトALK2(R206H)を発現する骨格筋組織由来細胞でBMPシグナルが亢進する事が確認できた。これはFOP患者での異所性骨形成には骨格筋組織に由来する単核細胞が強く関与することを明らかにするものである。 また、典型的FOPと非典型的FOP症例から同定された2種類のALK2変異体の解析より、それぞれのALK2が異なるBMPのII型受容体によって活性化される事も見出した。この結果から、変異型ALK2のみならずBMPのII型受容体がFOP発症や症状の多様性に重要な役割を担うものと考えられ、この知見は今後のFOPの発症機序の解析や治療方法の開発に大きく貢献するものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果より、FOP患者では骨格筋組織由来の単核細胞が異所性骨誘導に関与することが示唆された。今年度では、これらのヒトALK2(R206H)の発現細胞を解析するために、FACSによって標的細胞を単離し、in vitroにおける骨、軟骨及び脂肪細胞分化能の評価を行う事で異所性骨を誘導する細胞の同定を行う。そして、この同定した細胞を免疫不全マウスに移植し、異所性骨の形成の有無を確認する。 また、BMPR-IIによる典型的ALK2変異体の活性化がFOPの発症に寄与する事から、BMPR-IIによるALK2のリン酸化を阻害する化合物はFOPの予防、及び治療薬になると考えられる。よってALK2リン酸化阻害剤のスクリーニングを行い、FOP治療薬なりうる化合物の同定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度にアメリカ骨代謝学会(バルチモア)で発表予定であったが、発表を行わなかったため。 ヒトALK2(R206H)の発現細胞の詳細な解析のための試薬購入費として使用する。
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