研究課題
若手研究(B)
造血はアダルトにおいては骨随腔において営まれ、生涯にわたって必要な血液細胞を供給し続ける。一方、骨は体を支え、動力を伝える支点になるばかりではなく、骨髄腔を提供し、造血組織としても機能する。したがって、骨粗鬆症製剤は、骨に影響するばかりではなく、造血機能へも作用する可能性がある。特に、破骨細胞は骨を吸収生体唯一の細胞であることから、多くの骨粗鬆症製剤の標的細胞となっているが、造血においても、骨髄中で産生された造血前駆細胞が末梢へ動員される際にも必須の機能を有することが報告されている。また、破骨細胞は骨髄腔の形成に必須の役割を担うことから、その分化や機能が著しく障害されたマウスやヒトでは、骨髄腔のない、いわゆる大理石骨病を呈す。このことは、破骨細胞機能が障害されたヒトやマウスでは、骨髄造血のための骨髄がないばかりではなく、造血前駆細胞を末梢へ動員もできない、二重の障害を呈する可能性がある。しかし、申請者らは、破骨細胞分化が著しくあるいは完全に障害されたモデルマウス3種類(c-Fos欠損マウス、RANKL欠損マウス、op/opマウス)に全てにおいて造血前駆細胞の末梢への動員が起こることを見いだした。また、このことは野生型のアダルトマウスに対して、破骨細胞を強力に抑制する効果から骨粗鬆症治療剤として用いられているビスホスホネート製剤であるアレンドロネート、あるいはRANKL中和抗体を投与しても観察された。つまり、破骨細胞は造血前駆細胞の末梢への動員には必須ではないことが示された。そこで、破骨細胞のみならず骨芽細胞側にも作用し、骨粗鬆症治療剤として用いられるビタミンD製剤を用いた投与実験を開始している。ビタミンD製剤が、破骨細胞側あるいは骨芽細胞側のいずれの細胞に作用したのかを確認するため、野生型マウスとビタミンD受容体欠損マウス(VDR KO)を用いて解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
骨粗鬆症治療剤として実際に臨床で使用されている製剤であるアレンドロネート及びRANKL中和抗体ではすでに知見を得ており、さらにビタミンD製剤でも解析が進んでいる。これらの製剤は日常的に患者に投与されているものであり、その骨への効果については臨床治験のデータが蓄積しているものの、骨と密接に関連している骨髄造血についてはほとんど知見がないのが現状である。本研究では骨粗鬆症治療剤の造血系の影響を、一部の製剤においてではあるもの、明らかにしている点は順調に進展している点である。また、破骨細胞のみならず、骨芽細胞側へも作用する製剤については、骨髄移植の系を用いて骨髄の入れ替えマウスを作製しているが、かなりの個体数が必要になるため、完全には解析が終了していない。しかし、こちらの系においても全てのパターンでの骨髄入れ替えマウスの作製までは終了しており、今後は解析を行うところまでは進展している。
ビタミンD受容体(VDR KO)と野生型マウス(WT)を用いて、VDR KO由来の骨髄細胞をVDR KOあるいはWTへ移植した群と、逆にWT由来の骨髄細胞をVDR KOあるいはWTへ移植した群の4通りのキメラマウスの作製を終了した。今後は、これらのマウスに対して、ビタミンD系製剤の1つであり、骨量増加効果のあるED71製剤あるいはそのvehicleを投与する群の2群を作製し、薬剤の効果について骨および造血への作用について評価する予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 110 ページ: 16568-16573
10.1073/pnas.1308755110