研究実績の概要 |
変形性膝関節症(膝OA)の骨棘は,近年患者のADL低下と関連することが明らかとなった病態である. それは,関節軟骨辺縁近傍の滑膜に存在する間葉系幹細胞が成長軟骨の内軟骨性骨化と類似した過程を経て,軟骨そして骨へと分化し形成される. しかし, その分子レベルの機序は多くが不明である. パールカンは,軟骨や滑膜の細胞外基質に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンであり,細胞増殖や成長因子そして細胞と受容体との結合など, 細胞機能全般の保全に必須の分子である. 本研究では,膝OAの骨棘形成後期の病態解明に焦点を絞り,関節軟骨辺縁の滑膜に発現するパールカンの機能解析を行った. 平成25年度にはマウス膝OAモデルの骨棘をin vivoで解析し,滑膜のパールカンが欠損すると骨棘分化過程後期における骨棘サイズと成熟度が障害された. 平成26年度は,その分子機序をin vitroにて解析した. 関節内ではパールカンが軟骨にのみ発現し滑膜では発現しないマウス(Hspg2-/-Tg)を用い,同腹の野生型マウスを対照とした. Hspg2-/-Tg及び対照マウスから採取した初代滑膜培養細胞を,3次元培養を用いて軟骨分化誘導を行った. 対照群では軟骨の主成分である2型コラーゲンの培養後期2週間後の発現は,培養72時間後に比し,有意に増加したのに対し,Hspg2-/-Tg滑膜細胞では,培養後期2週間後は72時間後に比し増加したものの,対照群と比べ発現が低かった. さらに,VEGF(血管内皮細胞増殖因子)は,対照滑膜細胞では培養後期2週後において,72時間後に比べ明らかな発現の上昇を認たのに対し, Hspg2-/-Tg滑膜細胞では,その発現が72時間後でも2週間後でも認められなかった. 以上から,滑膜に発現するパールカンは,膝OA発症時に滑膜に存在する間葉系幹細胞から発生する骨棘の形成過程後期においても,促進的に機能することが強く示唆された.
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