研究課題
前年度まで、圧迫性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症手術症例における脳脊髄液を採取、解析した結果、圧迫性脊髄症急性増悪期において、脳脊髄液中phosphorylated neurofilament subunit NF-H (pNF-H) の発現が上昇することを発見し (Takahashi H et al. J Clinical Neuroscience 2014)、圧迫性脊髄症急性増悪期において軸索の障害が起きているという病態を解明した。これを受けて、その他の髄鞘、アストロサイト、ニューロンといった神経細胞そのものへの細胞障害の程度をみるため、軸索損傷を反映するpNF-Hの他に、軸索の微小管を構成するTau、神経細胞質の障害を反映するNSE、アストロサイトの損傷を反映するS100β、髄鞘の障害を反映するMBPについて、得られた検体に対し、EIA、ELISA、ECLIA法を用いて脳脊髄液中の蛋白発現量を測定した。さらに、手術症例については術後1年以上の経過観察が行われたため、臨床成績との比較検討、相関の解析を行った。その結果、pNF-H、Tauは圧迫性脊髄症急性増悪期において著明な発現上昇がみられたのに対し、他の蛋白の発現量上昇はみられないという結果であった。このことから、圧迫性脊髄症急性増悪期には軸索が優位に障害を受けるが神経細胞への障害は軽度にとどまる可能性が示唆された。さらに、術前脳脊髄液中pNF-H値と手術成績には正の相関を認め、pNF-Hの高い時期の手術成績は良好であったことから、pNF-Hは圧迫性脊髄症の術後予後を予測するバイオマーカーとして有用となり得る可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
圧迫性脊髄症の病態について、軸索が優位に障害を受けるが神経細胞への障害は軽度にとどまるという病態の一部を解明し得た。また、手術成績、予後を予測するバイオマーカーとしてpNF-Hが有用である可能性も示唆され、当初の研究目標は概ね達成されたと考えられる。
各種神経細胞についての解析結果は現在英文論文を作成中であり、症例を若干数増やした解析結果にて、European Spine Journalへの投稿を予定している。また、ごく最近得られた知見をもとに、解析蛋白の追加も検討しており、若干の費用を要する可能性がある。また、2016年の第45回日本脊椎脊髄病学会、第89回日本整形外科学会総会への発表が決定しており、発表予定である。また、2016年のEurospineにも発表を予定している。(採択結果は未)
2015年度までの研究計画で、圧迫性脊髄症急性増悪期において発現量が上昇する蛋白、上昇しない蛋白がある程度同定され、予定より低予算で圧迫性脊髄症の病態の一部を解明するに至った。このため、さらに症例数を増やして蛋白を同定すること、また、ごく最近の発表で得られた知見をもとに新たな蛋白(MAGなど)についてのELISA解析を追加することにより、圧迫性脊髄症の病態解明においてさらに一歩を踏み込めると考え、延長を申請するに至った。
2016年度に最終の研究成果を英文論文として作成、投稿を予定している。その際、症例数の追加、ELISA検討項目の若干の追加を検討しているため、その症例の検体解析、各種物品など消耗品、及び英文校正に費用が必要となる予定である。また、2015年度中に2016年度開催予定の学会に演題登録を行い、採用となったため、学会参加が必要となり、費用が必要となる予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件) 学会発表 (7件)
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