研究課題/領域番号 |
25861349
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
上住 円(池本円) 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 再生再建医学研究部, 室長 (70435866)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 老化 / サルコペニア / 筋再生 / 骨格筋幹細胞 |
研究実績の概要 |
サルコペニア(加齢に伴う筋肉量および筋機能の低下)は高齢者に転倒や骨折の危険性を増加させ、それらに伴う筋損傷からの速やかな回復は更なる心身の虚弱(フレイル)や要介護状態への進行を防ぐために必須である。実際、加齢に伴い筋再生能力は低下し、筋再生を担う骨格筋幹細胞(筋衛星細胞)の数も顕著に減少することから、老化による筋衛星細胞数の減少が筋再生能低下の一因であると考えられる。これまでに我々は、老齢マウス (24ヶ月齢超) と若齢マウス (2-3ヶ月齢) の筋衛星細胞の網羅的遺伝子発現解析から、加齢に伴い筋衛星細胞で発現変動する遺伝子群を同定している。本研究では、これら変動遺伝子のうち、老化で発現減少するNGFR (Nerve Growth Factor Receptor) に着目し、その機能解析から加齢に伴う筋衛星細胞数減少機序を明らかにする。まず、個々の筋衛星細胞レベルでNGFRの発現を調べると、若齢マウスではNGFR(+)とNGFR(-)筋衛星細胞が存在しており、老齢マウスではNGFR(+)筋衛星細胞の割合が顕著に低下していた。NGFR(+)とNGFR(-)筋衛星細胞の能力を培養下で比較したところ、NGFR(-)筋衛星細胞で増殖能の低下が認められた。また、NGFR(+)筋衛星細胞にリガンドであるNGFを添加すると増殖が促進されたことから、筋衛星細胞機能におけるNGFRシグナリングの重要性が示唆された。さらに、NGFRの発現制御機構について調べるため、遅筋(ヒラメ筋)と速筋(長趾伸筋)から単一筋線維を取り出し、それらに付随する筋衛星細胞でのNGFRの発現を比較した。その結果、遅筋に付随する筋衛星細胞でNGFRの発現がより高い傾向にあり、筋線維の収縮や代謝特性がNGFRの発現制御や筋衛星細胞の維持に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、加齢に伴い筋衛星細胞で発現が顕著に減少するNGFRに着目し、その機能解析を通して、加齢に伴う筋衛星細胞数減少機序を探る。今年度までに、NGFR(+)とNGFR(-)筋衛星細胞の培養下での能力比較を行い、NGFR(-)筋衛星細胞ではmyogenicな能力が低いことを見出した。また、NGFR(+)筋衛星細胞へのリガンド刺激により増殖能力が促進されたことから、筋衛星細胞の機能におけるNGFRシグナリングの重要性も明らかになってきた。さらに、NGFRの発現制御機構に関する検討を行い、筋衛星細胞が局在する筋線維の収縮や代謝特性がNGFRの発現を制御し、筋衛星細胞の維持に重要である可能性を明らかにした。このように、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、NGFR(+)とNGFR(-)筋衛星細胞をマウスへ移植することによりin vivoでの筋再生能力を比較する。また、リガンドの投与やNGFRシグナリングの阻害が筋再生へ及ぼす影響を調べる。 (1) NGFR(+)とNGFR(-)筋衛星細胞のin vivoでの筋再生能力の比較:それぞれの細胞を筋ジストロフィーのモデルマウスであるmdxマウス(ジストロフィンを欠損している)の各対足に移植し、ジストロフィン染色により、移植したNGFR(+)およびNGFR(-)筋衛星細胞の筋再生能力を比較する。 (2) 筋衛星細胞の再生能力におけるNGFRシグナリングの重要性の検証:若齢マウスの骨格筋に筋損傷を誘導し、NGFRのリガンドまたはNGFR-Fc融合タンパク質を投与し、NGFRシグナリングの活性化または阻害が筋再生へ及ぼす影響を調べる。 (3) 筋衛星細胞特異的にNGFRを欠損させたコンディショナルKOマウスの作製と解析:骨格筋において筋衛星細胞特異的に発現するPax7の制御下でタモキシフェン誘導型Creを発現するマウス (Pax7-CreERT2) とCreの作用によりNGFRが欠損するflox (NGFRFloxed/Frt) マウスを交配し、タモキシフェン投与により筋衛星細胞特異的にNGFRを欠損するコンディショナルKOマウスを作製する。このマウスにおける筋衛星細胞数の変動を、Pax7またはM-cadherin (筋衛星細胞のマーカー) 抗体を用いた免疫組織染色やFACSによって定量し、NGFRの欠損が筋衛星細胞の生存維持に及ぼす影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
筋衛星細胞におけるNGFRの機能解析について、in vivoでの検証が現在条件検討に留まっており、本格実施するためのタンパクをまだ購入していない。よって、今後マウスに投与予定のNGFRのリガンドやNGFR-Fc融合タンパク質購入のための費用を次年度使用額として計上した。
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次年度使用額の使用計画 |
今後in vivoでの検証を本格的に実施することと、NGFRのリガンドやNGFR-Fc融合タンパク質のマウスへの投与量が当初の予定より多く必要であると見積もられていることからも、当該年度繰越し額と合わせて、次年度に上述した研究計画遂行のために使用する。
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