サルコペニア(加齢に伴う筋肉量および筋機能の低下)は高齢者に転倒や骨折を誘発し、それらに伴う筋損傷からの回復の遅れは、さらなる要介護状態や寝たきりを引き起こすリスクファクターとなる。実際、加齢に伴い筋再生能力は低下し、筋再生を担う骨格筋幹細胞(筋衛星細胞)数も減少することから、老化による筋衛星細胞数の減少が筋再生能力低下の一因であると考えられる。我々は、老化マウス(24ヶ月齢超)と若齢マウス(2-3ヶ月齢)の筋衛星細胞を用いた網羅的遺伝子発現比較解析から、老化で発現減少するNGFR (Nerve Growth Factor Receptor)を見出し、その機能解析を通して加齢に伴う筋衛星細胞数減少機序を探った。まず、個々の筋衛星細胞レベルでNGFRの発現を調べると、若齢マウスではNGFR(+)と(-)の細胞が存在しており、老化マウスではNGFR(+)筋衛星細胞の割合が顕著に低下していた。NGFR(+)と(-)細胞の能力を培養下で比較したところ、NGFR(+)筋衛星細胞で高い増殖・分化能が認められ、リガンドの1つであるNGFを添加することによりさらにその能力が促進されたことから、筋衛星細胞機能におけるNGFRの発現とそのシグナリングの重要性が示された。次に、NGFRの発現制御機構について調べるため、遅筋(ヒラメ筋)と速筋(長趾伸筋)から単一筋線維を取り出し、それらに付随する筋衛星細胞でのNGFR発現を比較した。その結果、遅筋に付随する筋衛星細胞でNGFRの発現がより高い傾向にあった。さらに、老化マウスでは筋衛星細胞の局在異常が見られ、それが細胞数減少に関与する可能性が示唆されているため、局在異常とNGFR発現との関連性を調べたところ、局在異常を示す筋衛星細胞でNGFRの発現がより低い傾向にあることが分かった。以上の結果から、筋線維の収縮や代謝特性がNGFRの発現制御に関わり、局在異常によるNGFRの発現低下が筋衛星細胞数の減少に関わる可能性が示唆された。
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