現在使用されている局所麻酔薬は、神経ブロックとして使用する場合、痛みはなくなるが痛み以外を伝える神経や運動神経にも影響が出てしまう。QX-314という薬剤は局所麻酔薬の誘導体で、それ自体は局所麻酔薬としての作用を示さないが、カプサイシンなどとの併用によって、痛みだけを取ることができる可能性のある薬剤である。しかし動物実験では、くも膜下投与を行った場合、毒性が発揮される可能性も示唆されている。本研究では、脊髄に対するQX-314の作用を電気生理学的に調べた。 ラット脊髄横断スライスを用いた解析:脊髄後角ニューロンより、微小ガラス電極を用いてホールセルパッチクランプ記録を行った。QX-314の灌流投与によって、N-methyl-D-asparete (NMDA) 起因性電流の振幅が投与前の約80%に減少した。また、自発性興奮性シナプス後電流(EPSC)には有意な変化はなかったが、数pA程度の小さな内向き電流を生じた。神経根を刺激したときに誘発される興奮性シナプス後電流は、カプサイシン+QX-314の灌流投与によって消失した。 ラットin vivo標本からの記録:細胞外記録によって、脊髄表面に灌流したカプサイシンおよびQX-314の作用を解析した。脊髄に電極を刺入し、後肢への刺激(触刺激、圧刺激、侵害刺激)によって誘発される活動電位のパターンによって、細胞を3種類に分類して解析した。QX-314の投与によって、活動電位の発生頻度はそれぞれ減少したが、特に痛みに関連したニューロンで大きく減少した。 本研究の結果を総合すると、QX-314は特に痛みに関連した細胞の興奮性を低下させる作用があることが示唆された。反面、小さな興奮性の電流が生じたり、EPSCが増加する細胞も見られるなど、一部の細胞では興奮性を増加させている可能性も示唆された。
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