まず、実験を進めるに当たって、新生仔マウスにおける神経細胞死の原因が麻酔薬による呼吸抑制からの低酸素血症及び循環抑制である可能性を排除する必要性が生じた。そこで、パルスオキシメーターによる経皮的動脈血酸素飽和度を測定することとした。麻酔薬による新生仔マウスの経皮的動脈血酸素飽和度の低下は認められず、また、ドップラー血流計による脳血流の測定においても脳血流量の低下も認めなかった。これにより、神経細胞死の原因が麻酔薬そのものによるものであることを確認し、プロポフォールとセボフルラン併用の麻酔がセボフルラン単独の麻酔よりも危険な麻酔法であり、かつ、チオペンターとセボフルラン併用の麻酔はそうではないことを証明し論文で発表することができた(J Anesth. 2014; 28 :815-820)。 次に、多光子レーザー顕微鏡を用いた、吸入麻酔薬による全身麻酔下の生きた新生仔マウスにおける神経細胞内でのCa2+濃度変化’の生体内イメージングであるが、神経細胞を同定し細胞内Ca2+のリアルタイムイメージングは成功した。しかし、実験時間中の新生仔マウスの生存維持が困難を極めた。大脳皮質へのOregongreen BAPTA-AMの注入のための開頭作業の侵襲がその原因と推測された。そこで、開頭せずに経頭蓋骨的にOregongreen BAPTA-AMを注入して実験したが、おそらく頭蓋内圧の上昇により、生存時間の延長には至らなかった。現在、Oregongreen BAPTA-AMに代わって、経皮的または腹腔内投与により大脳皮質神経細胞内Ca2+を標識できる物質を探索及び開発中である。
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