中枢神経系の虚血性神経細胞死は、従来虚血による低酸素とそれに伴う細胞の恒常性の破綻ならびに興奮性アミノ酸放出とその受容体刺激による神経細胞死がその主な要因であると考えられていた。しかし、最近では神経細胞のみならず中枢神経系に存在するグリア細胞、特に免疫系細胞であるマイクログリアの役割ならびに炎症反応の影響が注目されている。今回、我々はマウス脊髄虚血による遅発性脊髄障害モデルを用い、その病態における炎症反応ならびに自然免疫に関与するToll様受容体特にTLR2とTLR4の影響についてそれぞれのノックアウトマウスを用い検討した。全身麻酔下に5分間の大動脈遮断による脊髄虚血侵襲を与え、経時的に脊髄での炎症性サイトカイン(TNFα、IL6)発現を計測した。また、TLR4及びTLR2ノックアウトマウスに5分間虚血侵襲を与え、遅発性脊髄障害の発症を調べた。炎症性サイトカインであるTNFαとIL6は虚血後24時間目から発現が増加し、その後急激に増加した。また、TLR2ノックアウトマウスは脊髄虚血後にWild型マウスと同様に遅発性脊髄麻痺を発症したが、TLR4ノックアウトマウスではその発症は認められなかった。今回の結果から、マウス大動脈遮断後脊髄虚血による遅発性脊髄障害の発症には、自然免疫に関与するTLR4が重要な役割をしており、TLR4を刺激することによる炎症性サイトカインの放出がこの病態生理に強くかかわっている可能性が示唆された。
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