前立腺癌(PC)の進展過程において神経周囲浸潤(PNI)は、重要なメカニズムであるが、その分子機構は不明である。本研究では、PNIに関与するPC細胞側の責任分子を同定し、その分子機構について明らかにする。2013年度は、PC細胞、神経(HN)細胞、神経周膜(HNPC)細胞におけるリガンドとレセプターの検索のため、PC細胞のcDNAライブラリー導入したファージライブラリーとHNおよびHPNC細胞のファージディスプレイスクリーニングから、HNおよびHPNC細胞に結合するPC細胞の候補因子としてインテグリンα6を同定した。2014年度は、高浸潤能性PC細胞と低浸潤性PC細胞のマイクロアレイ解析により、PC細胞のPNI抑制候補因子として上皮細胞の膜タンパク質であるα-ジストログリカン上のラミニン結合糖鎖(LNBG)合成に関連する因子が高浸潤性PC細胞で顕著に減少することを明らかにした。前立腺全摘標本における免疫組織化学的検討からPNI部位におけるLNBG陰性かつインテグリンα6陽性腫瘍の存在は、PCの生化学的再発の独立した危険因子であることが明らかとなった。2015年度は、少なくとも2-8層からなるHPNC細胞積層モデルの構築し、この神経周膜モデルに対するPC細胞の浸潤能を調査のためにインテグリンα6とLNBGの発現が異なる4種のPC細胞株を樹立した。2016年度は、神経周膜モデルに対するPC細胞の浸潤能と抗インテグリンα6抗体あるいは、抗CXCR4抗体による浸潤阻害実験を行った。その結果、PC細胞は、HPNC細胞が分泌するSDF-1により、遊走能が亢進し、インテグリンα6を介してHPNC細胞に接着するがLNBGの発現が亢進した細胞では、浸潤能が低く、PC細胞上のインテグリンα6も発現亢進とLNBGの合成減少が神経周囲浸潤に重要であることを示した。
|