アンドロゲン遮断療法(ADT)は破骨細胞のRANKシグナルを活性化することにより骨密度を減少させる。また、Osteoprotegerin(OPG)によるRANKシグナル抑制は前立腺癌の骨関連事象発生を抑制することが報告されている。しかしADTによる破骨細胞活性化に伴う骨密度減少が、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の骨転移発生を促進する可能性については、現在まで研究されていない。 Balb/cヌードマウスを非去勢群、去勢群、去勢+OPG投与群の3群に分け、lucuferase活性を持つヒトCRPC細胞(PC3M-luc-C6)を心室内投与して、マウスCRPC骨転移モデルを作製した。micro‐CTで骨密度を経時的に測定し、骨組織のTRAPおよびRANKL免疫染色を行った。 去勢群は非去勢群に比較して有意に去勢後の全骨密度が低下し(p = 0.034)、去勢+OPG群は去勢群に対して有意に海綿骨密度が改善した(p = 0.010)。心室内投与3週後における骨転移発症率は、去勢群は非去勢群および去勢+OPG群に対して有意に高かった(p = 0.024、p = 0.028)。1個体あたりの骨転移数は、去勢+OPG群は去勢群に対して有意に抑制された(p = 0.044)。また転移巣の平均photon countsは、去勢群は非去勢群に対して有意に促進された(p = 0.030)。骨組織のTRAP染色陽性破骨細胞数およびRANKL染色陽性骨芽細胞数は、去勢群で非去勢群に対し有意に多かった(p = 0.007、p = 0.037)。 マウス去勢により、骨密度低下および破骨細胞数の増加に伴い、新たなCRPC骨転移の発症が促進された。またOPG投与によりこの効果は抑制された。本研究でのマウス去勢による骨転移促進は、RANK/RANKLシグナル亢進に起因する破骨細胞活性化によると考えられる。現在の癌診療における破骨細胞抑制療法は骨転移の発症後に行われるが、ADT開始時からの破骨細胞抑制療法が、特に非転移性局所進行性ハイリスク前立腺癌の骨転移発症予防に有効である可能性が示唆された。
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