幹細胞を用いる再生療法は種々の疾患の治療に応用できる可能性を秘めているが、培養細胞を用いた再生療法においては常に癌化、あるいは無抑制増殖の懸念が存在する。脂肪組織は骨髄に比べて100倍以上の間葉系細胞を含有し、脂肪由来幹細胞は体外培養を要さずに治療に使用できるため安全性が高い。多くの基礎的研究が行われており、注入組織の血流増加、抗線維化作用をもつほか、静脈投与により炎症臓器へ集積することが報告されている。 近年、膀胱機能障害の病因として膀胱血流障害が注目され、過活動膀胱、前立腺肥大症、間質性膀胱炎などの病態における膀胱血流障害の重要性についての知見が報告されつつある。ラット膀胱への塩酸注入により、膀胱粘膜~筋層の炎症を惹起し、その後 線維化を起こし、機能的には疼痛閾値の低下とともに排尿筋過活動が認められる。これらは臨床においてしばしば問題となる間質性膀胱炎の病態と共通する部分が多い。 本研究では塩酸誘発膀胱炎症ラットモデルの尾静脈より培養脂肪由来幹細胞を投与したところ、炎症を起こした膀胱への幹細胞の集積を確認するとともに、膀胱の炎症の軽減、血流の増加を確認した。 本研究の結果により、幹細胞治療の新しい作用機序を解明することができ、さらに臨床的には間質性膀胱炎に対する新規治療の開発につながることが期待される。
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