研究課題/領域番号 |
25861418
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
吉尾 裕子 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (10646251)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 前立腺 / 去勢抵抗性前立腺癌 / 線維芽細胞 / 平滑筋細胞 / アンドロゲン感受性 / 間質リモデリング / ゼノグラフト / 増殖因子 |
研究実績の概要 |
本年度は前立腺肥大症の摘出手術材料を免疫不全ヌードマウスの腎被膜下へ移植し、ホストマウスの体内アンドロゲン環境の違いで生じるヒト前立腺組織構築の変化を観察した。 一般的に、マウス体内のアンドロゲン濃度はヒトと比較して1/3程度と言われており、前立腺肥大症の摘出手術材料をマウスへ移植するだけでは前立腺組織が萎縮してしまう。そこで我々は、10 mgテストステロン錠を自作し、摘出手術材料の移植時にホストマウス皮下に投与することでヒト体内の前立腺組織と同様の病理組織像を得るに至った。本研究課題では10 mgテストステロン錠を皮下に投与し、ホストマウス体内アンドロゲン濃度を高く維持する「+T群」、テストステロン錠を投与しない「Intact群」、そしてホストマウスを去勢し、限りなく体内アンドロゲン濃度を低くした「Castrated群」の3群に分けて、それぞれの体内アンドロゲン環境におけるヒト前立腺組織の病理組織像を比較検討した。その結果、Intact群およびCastrated群では腺上皮細胞が萎縮~減少し、主にp63陽性の基底上皮細胞が残存していた。正常な腺上皮細胞が発現しているアンドロゲン受容体はCastrated群で完全に消失し、同時に前立腺特異抗原PSAの発現も消失していた。間質について、+T群では肥厚で、成熟したalpha-SMA陽性の平滑筋細胞層が認められるものの、Intact群およびCastrated群では平滑筋細胞層が消失した。なお、いずれの群においてもvimentin陽性の線維芽細胞は存在していた。以上より、ヒト前立腺組織の構造は体内アンドロゲン環境の違いで大きく変化し、低アンドロゲン環境下における間質リモデリングの誘導が前立腺の増殖性病変と密接に関係している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、今年度は前立腺肥大症の摘出手術材料を免疫不全マウス腎被膜下へ移植するゼノグラフトモデルを作製した。ホストマウスの体内アンドロゲン環境がヒトと異なるためにテストステロン錠を皮下へ埋め込む手法を取り、前立腺組織の萎縮を防ぐことができた。また、良性のヒト組織をマウス体内で維持することは極めて難しいものの、我々が行う腎被膜下移植では移植してから4週間経っても病理組織像を評価できる手技であり、本研究課題を遂行していく上で非常にパワフルなツールとなることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
当初から計画していた動物実験は今年度までの2年間である程度の形にすることが出来た。そこで、最終年度はマウス前立腺を用いた無血清器官培養実験を計画し、動物実験で観察された低アンドロゲン環境下における間質リモデリングの誘導を試験管内の実験系で再現することを目指す。 一般的に、無血清器官培養実験については長い歴史があるものの、主に前立腺の発生に関する基礎研究が行われてきた。すなわち前立腺の腺管構造が形成されるかどうか等の検討である。我々が計画する間質リモデリングの観察のような病理組織学的な解析は他に類を見ないため種々の工夫が必要と考えている。病理組織学的な評価については三重大学大学院医学系研究科 腫瘍病理学の白石 泰三博士に意見を伺いながら、正確な判断を下せるよう努める。
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