当教室では去勢抵抗性前立腺癌細胞株であるC4-2をアンドロゲン除去下で培養し、C4-2AT6細胞株を樹立した。去勢抵抗性前立腺癌に対する標準治療はドセタキセルを用いた抗癌化学療法であるが、C4-2AT6はC4-2と比較し有意にドセタキセルに対して抵抗性を示す。ドセタキセルがPI3K/Akt pathwayを活性化する事に着目したところ、PI3K/mTOR阻害剤はC4-2AT6において高い抗腫瘍効果を示し、ドセタキセル抵抗性の改善に寄与する可能性を示唆した。PI3K/mTOR阻害剤の問題点の一つに、フィードバック経路がある。とりわけ前立腺癌においてはアンドロゲン・アンドロゲンレセプター軸(AR axis)とPI3K/Akt pathwayとの相補排他的フィードバック経路が挙げられる。そこでPI3K/mTOR阻害剤とAR阻害剤との併用療法に着目して検討を行った。C4-2AT6はC4-2と比較してアンドロゲンレセプターの亢進を認め、PI3K/mTOR阻害剤(NVP-BEZ235)の使用は濃度依存的にアンドロゲンレセプターの発現を亢進させた。続いて、アビラテロンやMDV3100等の抗アンドロゲン剤とNVP-BEZ235の併用によるC4-2AT6に対する殺細胞効果をWST assay法を用いて評価した。しかし、アビラテロンとの併用において若干の殺細胞効果の上昇を認めたものの、仮説と反してMDV3100とNVP-BEZ235の併用療法はC4-2AT6に対して有効性を示さなかった。アンドロゲン感受性前立腺細胞株であるLNCaPではこれらの薬剤の併用の有効性が報告されている。これらの結果は、高い悪性度を獲得した前立腺癌細胞ではAR axisとPI3K/Akt pathwayの同時阻害は有効性を示さないこと示唆した。その抵抗性を克服するため、薬剤濃度や投与のタイミング、RAS-MAPK pathwayやJAK/STAT pathwayとの関連についても追加で検討中である。また現在はMDV3100とNVP-BEZ235に加えドセタキセルを併用した際の殺細胞効果を調べて相加相乗効果を検討しているほか、それら併用療法のin vivoでの検討を続けている。
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