当教室で前立腺癌に対して根治的前立腺全摘術を施行した86症例分の臨床検体におけるPin1の発現を免疫染色化学を用いて評価した。High Gleason scoreとPin1の発現は相関した。また多変量解析でPin1の発現はPSA再発の独立予測因子であった。この結果は、前立腺癌におけるPin1制御の重要性を示唆した。ヒト前立腺癌細胞株であるLNCaP、C4-2AT6に対してPin1阻害剤の効果を検討した。LNCaPはホルモン感受性、C4-2AT6は去勢抵抗性を示す。Pin1阻害剤としてJugloneを使用した。ウエスタンブロット法を用いてPin1の発現を評価した所、LNCaPと比較してC4-2AT6は優位にPin1の発現の亢進を認めた。JugloneはLNCap、C4-2AT6いずれのPin1発現を抑制した。Cell viability assayを用いてJugloneのC4-2AT6に対する 殺細胞効果を検討した。Juglone単剤(30μM)の殺細胞効果が51.2 ± 3.2 % であったのに対し、Jugloneとドセタキセル(5nM)の併用では 34.9 ± 3.8 % であった. Juglone単剤でC4-2AT6に対して抗腫瘍効果を示すが、ドセタキセルとの併用は優位に高い抗腫瘍効果を示した(p<0.05)。ドセタキセルへの曝露によってPin1の発現亢進を認めた。当教室ではこれまでに去勢抵抗性前立腺癌に対するPI3K/Akt pathway制御の有用性について報告してきた。Dual PI3K/mTOR阻害剤であるNVP-BEZ235とJugloneとの併用効果を評価したが、NVP-BEZ135とJugloneの併用効果はほとんど認めなかった。この結果はPin1がPI3K/Akt/mTOR pathwayのリン酸化の制御にも関与していることを示唆した。
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