これまでに乳癌において、EGFRを介しGEP100-Arf6-AMAP1 pathwayがE-cadherinの発現を制御することやAMAP1の発現が予後予測因子として有用であると報告されている。また癌の浸潤形質制御におけて同pathwayが重要な役割を担うことが着々と解明されており、同pathwayは新規治療標的として有用であると考えられている。前立腺癌は性ホルモンとの強い関連を有するなど乳癌と共通点の多い癌種である。本研究では同pathwayが前立腺癌の浸潤形質の制御機構であるか否かを解明し、同pathowayの制御が新規治療戦略として有用であるか検討することを目的とした。前立腺全摘術を施行し、術後5年以上追跡可能であった症例の摘出検体を用いて、腫瘍部位におけるGEP 100、AMAP 1発現と予後(再発)の関連を解析した。免疫組織学的検討によりGEP100、AMAP1ともに高悪性度の癌組織に有意に強発現していることを解明した。また既存の前立腺癌術後の再発予測因子に、GEP100、AMAP1発現を因子として加えた多変量解析において、GEP100の高発現は独立した再発予測因子であった。以上より、前立腺癌においてGEP100-Arf6-AMAP1 pathwayを構成するsignalの発現は再発予測因子として有用である可能性が示唆された。前立腺癌患者数が急速に増加していることから、手術療法後の再発の確率が高い群と低い群を層別化し、再発の確率の高い群をより厳重に経過観察することが医療経済の面からも不可欠である。よって、手術療法後の再発を予測する新規因子を解明した本研究は有意義であると考えられる。引き続きEGFR阻害薬などによる同pathwayの制御が、前立腺癌の浸潤形質制御に関連するかは現在、in vivo、in vitroで検討中である。
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