本研究ではp63 isoformであるTAp63 alphaが卵母細胞において、生殖細胞特異的に高発現するBasonuclin1(Bnc1)の遺伝子発現を制御するメカニズムに焦点を当てて、TAp63 alphaの役割について解析を試みた。TAp63 alphaによるBnc1の発現制御について確認するため免疫蛍光染色法でTAp63 alphaの局在を検索したところ、一次卵胞から初期の胞状卵胞まで発現していたが、成熟卵母細胞においてはTAp63 alphaの発現を認めなかった。TAp63 alphaとBnc1の関連性を免疫染色で検討するため、数種類の抗Bnc1抗体やGFPタグを付加させたBnc1を用いてBnc1の局在を検討したところ、PFA固定で検出される局在とTCA固定やエタノール固定で認められる局在では見え方が異なることが判明した。これまでにルシフェラーゼアッセイの実験系でp63はBnc1プロモーター領域に結合し、Bnc1遺伝子発現を促進することが報告されているが、TAp63 alphaやBnc1が発現していないHeLa細胞や、Bnc1が低発現しているHEK293細胞にTAp63 alphaを過剰発現させても、Bnc1の発現変化を認めず細胞増殖が抑制され、Bnc1遺伝子の発現が減少した。卵母細胞を用いて解析するため、日齢4日目の仔マウスから卵母細胞を回収する方法・技術は確立したが、長期培養でTAp63 alphaの過剰発現下において卵母細胞を培養することができなかった。そのため、質量分析器を用いてBnc1に結合する蛋白質候補を検出し、TAp63 alphaが関与しそうな蛋白質を探索した。MS解析の結果、あるシグナル伝達経路に関与する標的蛋白質Xが同定され、分子生物学的に生理的意義をまとめつつある。その他標的蛋白質がいくつか同定され、現在解析中である。
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