本研究では卵巣におけるゴナドトロピン受容体であるLH受容体の発現制御機序およびそのシグナル伝達機序に注目して検証を行うこととした。顆粒膜細胞が卵巣における卵胞発育や排卵などの生殖機能において主要な役割を担っていることがわかっているため、ラット卵巣より顆粒膜細胞を抽出して初代培養系を作成し、この細胞培養系を用いてLH受容体の発現を解析した。昨年度は特に子宮内膜症患者においてその腹腔内濃度が高いと報告されているIL-6の作用機序を中心に検証したが、今年度は特に、炎症やアポトーシスを誘導するサイトカインとして知られるTNFαのLH受容体に対する作用を中心に検証した。当教室では、FSHが顆粒膜細胞におけるLH受容体の発現を促すことを確認してきているが、FSHとTNFαを共添加すると、TNFαの濃度依存的にLH受容体発現が抑制されることをmRNAレベル・細胞膜表面のタンパク発現レベルで確認した。この作用機序について、ルシフェラーゼをレポーターとしたプロモーターアッセイを行い、TNFαがLH受容体遺伝子の転写を抑制することが確認された。また、NF-κBの核内移行を阻害剤で抑制すると、TNFαによるLH受容体発現の抑制が有意に減弱することよりNF-κB経路の関与が示唆された。さらに、クロマチン免疫沈降法を用いて、TNFα添加によりNF-κB p65のLH受容体遺伝子プロモーター領域への結合が促進されることを確認し、TNFαのLH受容体に対する作用機序としてp65を介した転写の抑制が示唆された。
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