研究実績の概要 |
我々はこれまでに免疫染色によって、lipocalin2 (LCN2) が妊娠初期絨毛の細胞性トロフォブラスト(CT)、絨毛外トロフォブラスト(EVT)で高発現し、合胞体性トロフォブラスト(ST)には発現していないことを見出した。さらに妊娠初期絨毛から分離培養したEVTとEVTのモデルである絨毛癌細胞株JAR細胞、および組み換えLCN2 (rLCN2)を用いた実験により、LCN2は低酸素ほど発現増強し、MMP-9活性を高め、EVTおよびJAR細胞の浸潤能を有意に高めることを見出した。そこでLCN2の浸潤・遊走能亢進作用について、さらに卵巣癌細胞株(ES2)を用いて検討した。Scrach assayではcDNA導入によるLCN2高発現やrLCN2添加により)により遊走能亢進を認め(P<0.001, P<0.001)、Matrigel invasion assayではLCN2高発現、rLCN2により浸潤能亢進を認めた(P=0.02, P<0.001)。 このようにLCN2は細胞の遊走・浸潤能を高めると考えられたが、その機序として上皮間葉転換(EMT)に注目し、JAR細胞にLCN2を高発現させてE-cadherin発現をreal-time RT-PCR、Western blotting(WB)で検討したが、予想に反して発現増加する傾向が認められた。そこで妊娠初期絨毛組織を免疫染色で観察すると、LCN2受容体SLC22A17、MMP-9、E-cadherinはLCN2と同様にEVT, CTで発現が強く、STでは発現低下しているようであった。E-cadherinは合胞体化で発現減少も知られており、LCN2はCTやEVTの合胞体化に抑制的に作用している可能性が考えられた。
|