子宮内膜症は子宮外に子宮内膜が増殖する疾患で、卵巣の子宮内膜症では内部に血液が貯留した子宮内膜症性嚢胞(OEM)がしばしば形成される。OEMの約0.7%は癌化し明細胞癌(CCC)や類内膜癌(EC)が発生するが、特に日本人では、抗癌剤抵抗性で予後不良であるCCCの発生頻度が高いことが問題である。OEMの癌化では鉄イオンの関与が注目されている。すなわち、ヘモグロビンから遊離しOEM内に豊富に蓄積した鉄イオンは、フェントン反応から活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)を発生させ、酸化ストレスを誘導することで発癌に寄与すると考えられている。 Lipocalin 2(LCN2)は鉄輸送蛋白の1つで、炎症や種々の癌で高発現が報告されており、細胞内鉄濃度の調節から様々な機能を発現すると考えられている。我々はこれまでに、正常子宮内膜と比較して子宮内膜癌で発現が増強し、その悪性度増強に関与する因子としてLCN2を見出した。LCN2はその機能上とOEMとの関連が強く示唆されたため、OEMや卵巣癌におけるLCN2の関与を免疫組織染色にて検討したところ、LCN2はOEMやOEMから発生するCCCやECにおいて高発現し、LCN2高発現卵巣癌症例は有意に予後不良であった。そこで今回我々は、LCN2の機能解析を行うために、卵巣CCC細胞株を用いてLCN2と特に鉄イオン、ROSや酸化ストレスとの関係を検討した。 LCN2低発現卵巣明細胞癌株であるES2にLCN2 cDNAを導入してLCN2強制発現株(ES2-LCN2)を樹立した。ES2-LCN2はコントロールと比較し、細胞内の鉄濃度の上昇を認めたが、細胞内のROSや酸化ストレスは低下していた。抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)量に注目したところ、ES2-LCN2はコントロールと比較し細胞内GSH量が多く、細胞内GSH量を調節しているCD44 variant isoform(CD44v)やxCT発現が上昇していた。
|