高齢の不妊患者の生殖補助医療後の胚では、多核割球が高頻度に形成され妊孕性低下の原因となっている。しかし、その形成機序には不明な点が多く、また回避策として有効な手段も確立されていない。多核割球の形成機序を解明するために以下の二つの研究に着目した。①コンドロイチン硫酸(CS)鎖の欠損胚では多核割球が形成され、さらに生体内においても骨格筋の分化過程でCS鎖の減少が多核化・融合の過程に重要である。②加齢に伴うCS鎖の減少が、加齢疾患の原因となっている。本研究では、以上の二つの研究を基盤とし融合することで、加齢によるCS鎖の減少が多核割球形成の原因となり妊孕性低下の一因となっているという仮説を提唱し、検証している。 ①マイクロインジェクション法によってmRNAをCS欠損胚に導入し、前年度に構築したタイムラプス観察の系に適用した。実際に、mRNAの導入によって紡錘体及び核を可視化することで、卵割過程を観察したところ、CS欠損胚は細胞分裂の最終段階である割球間の脱離に失敗し、その結果、融合することで多核割球を形成していることが明らかとなった。 ②さらに、複数のプロテオグリカンが細胞分裂終期に形成される中央体に限局して存在することを免疫蛍光染色によって明らかにした。現在、候補となったコアタンパク質を発現するmRNAをCS鎖欠損胚に導入し、解析を進めている。 ③マウスの着床前胚からCS鎖の組成及び総量を検出する系を構築した。予想に反し、硫酸化されていないコンドロイチンの組成が最も多くを占めていることを明らかにした。現在、加齢胚に適用することで、加齢に伴ったCS鎖の減少を明らかにする。
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