近年、本邦では少子化が深刻な社会問題となり、生殖補助医療の果たす役割がますます大きくなりつつある。生殖補助医療による妊娠率改善のための一つの方法として、形態良好胚を移植しているにも関わらず着床に至らない反復着床不全の 症例に対する病態解明と検査・治療法の開発が急務であると考えられる。反復着床不全の原因の多くは子宮の受容性、あるいは胚と子宮とのクロストークの異常によるものと推測されている。特に子宮内膜の菲薄化した症例では、体外受精で形態良好胚が得られても、胚移植後に着床及び妊娠に至る可能性は極めて低く、ホルモン剤投与にも反応不良で、確立された治療法がないのが実情である。そこで本研究では、子宮内膜の菲薄化による反復着床不全に対する細胞医療の可能性を開拓することを目指す。まず、細胞バンク化されたヒト間葉系幹細胞株から子宮内膜様細胞への効率的な文化誘導法を開発する。さらに、このヒト内膜様細胞をマウス胚と共に免疫不全偽妊娠マウスの子宮に移植して、脱落膜あるいは胎盤形成に寄与するか病理学的に検討する。このドナー胚でもレシピエントの子宮内膜細胞でもない、第3の細胞が着床に寄与することが明らかになれば、妊娠初期における免疫寛容の確立を研究する実験モデルとしても有用であることが考えられる。今年度は、前年度に引き続き子宮内膜組織の再構築についての病理学的な検討、また子宮内膜と胚とのクロストークを探るため、細胞培養上清の液性因子が及ぼす影響について検討した。
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