目的:細胞傷害性T細胞を用いたがん抗原特異的免疫療法は、がん細胞表面の標的分子発現が必須であり、またT細胞受容体の抗原親和性や結合活性が細胞傷害能に大きな影響を及ぼす。従って、非常に多彩な組織をもつ唾液腺癌は抗体療法を含む抗原特異的免疫療法の対象になり難い。我々はキメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞を用いて、標的抗原を中等度発現した唾液腺癌細胞株を含む種々の癌細胞に対する細胞傷害活性を検討した。 材料・方法:標的分子として膵癌などで高発現を示すメソテリンを選択し、まず唾液腺癌手術検体における発現率を免疫組織学的に検討した。次に、マウス由来メソテリン特異的抗体クローンのSS-1から作製したSS-1 CARをヒトT細胞に遺伝子導入し、メソテリン特異的CAR発現T細胞を調製した。このT細胞を用いて、メソテリンを中等度発現するヒト顎下腺粘表皮癌由来細胞株であるA253ならびに様々なメソテリン発現率をもつ細胞株に対する活性化能、増殖能ならびに細胞傷害活性を検討した。 結果:ヒト唾液腺癌手術検体を用いた検討では、予想された通り各組織型によりメソテリンの発現に大きな偏りが認められた。また、各細胞株に対するCAR T細胞の反応も標的分子の発現率に比例する傾向が認められた。 考察:組織学的多様性の高い唾液腺癌は抗原特異的治療の対象とはなり難いと考えられ、有効なアジュバントとの併用により、その有効性を高める必要があると考えられた。
|