研究実績の概要 |
聴覚および前庭平衡覚の受容器である内耳の障害は、薬物、加齢、騒音など様々な原因で生じるが、多くは不可逆性の障害である。本研究では、内耳障害の予防戦略として、栄養源検知機構であるmTOR (mammalian target of rapamycin)シグナルに着目することにした。mTORは、細胞内の栄養環境を感知し、細胞の増殖や代謝、生存における調節因子の役割を果たすセリンスレオニンキナーゼである。この酵素が形成するmTORC1 (mTOR Complex1)複合体シグナルは、細胞内のバルク分解系であり、異常ミトコンドリアを排除するなど、細胞内の品質管理に貢献するオートファジーを誘導する。 本研究では、マウスの内耳器官培養系において、mTORC1の下流シグナルの応答を検出する実験系の確立を目指し、mTORC1の蝸牛シグナルであるオートファジーのモニターが可能である(green fluorescence protein)-LC3(MAP1LC3, microtubule-associated protein 1 light chain 3)トランスジェニックマウスを導入した。本マウスでは、オートファゴソームの形成がLC3のドット状の蛍光像(以下LC3 dots)で確認できる。研究代表者らは、内耳器官培養系において、内耳の感覚細胞である有毛細胞でLC3 dotsが多く形成されていることを確認した。次に、有毛細胞におけるオートファジーの活性を見るため、内耳器官培養系にリソソームプロテアーゼ阻害剤であるpepstatin AとE64dを投与したところ、非投与群と比較してLC3 dotsの蓄積がより多く認められることを確認した。本研究により、内耳有毛細胞において、mTORC1の下流シグナルであるオートファジー活性の検出系を確立し得た。
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