研究概要 |
急性中耳炎は高頻度に小児が罹患する代表的な上気道炎であり、また一部の患児 ではこの病態が遷延・反復することで、慢性中耳炎や感音難聴などの晩期合併症を来たし、 言語発達や学業成績に影響することがあることが知られている。 急性中耳炎の主な組織病理学的病態として中耳粘膜の過形成であり、その本態は細胞増殖・分化である。さらにこの状態が反復・遷延することで慢性中耳炎でみられるような鼓室の換気障害や肉芽形成、線維 化などの一部不可逆的な病態を惹起し、上述の晩期合併症に関連することも知られている。それゆえに中耳粘膜過形成の病理組織学的および分子生物学的なメカニズムの解明は重要と考えられる。 増殖因子は粘膜過形成を制御する主な因子であり、中耳粘膜においては EGF や FGF が関与することが知られているが、現在まで10種類程度の因子しか調べられておらず、網羅的な検討はされていなかった。申請者はこの点に鑑み急性中耳炎の粘膜過形成を制御する新た な増殖因子の検索をテーマとして基礎実験を行った。細菌性中耳炎モデルマウスにおける DNA マイクロアレイを用いた増殖因子の検索にて、中耳粘膜の過形成と同様の時間経過で mRNA の発現上昇を呈する7種類(HB-EGF,Amphiregulin, Epiregulin, Inhibin beta A, LIF, GDF15, Cxcl1)の新たな増殖因子を同定した。中耳粘膜器官培養組織による中耳粘膜増殖アッセイを用いて、前述の7因子の作用を検討したところ、HB-EGFにおいて著明な粘膜増殖効果を示し、急性中耳炎における粘膜過形成に寄与している可能性が示唆された。抗HB-EGF抗体を用いた免疫組織染色ではHB-EGFは中耳粘膜上皮および上皮および浸出液中の炎症細胞より産生されていることがわかり、以前の研究の結果と合わせるとこの炎症細胞は好中球と考えられた。
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