耳鳴治療の現在の主流は、補聴器やノイズジェネレータを耳にかけて使用するものである。しかし文献的に、耳鳴の音源定位はほとんどが耳か頭内と言われているため、耳鳴の抑制には距離のある音源定位の音の方がより効果があるのではないかという着想から、健聴者に対し、疑似耳鳴音と、音源定位の異なる雑音を用いて、音源距離の違いによるマスキング効果への影響を検討した。 耳疾患が無く、日常で耳鳴の自覚のない12名を対象とした。標準純音聴力検査で聴力閾値を確認した後、右耳に4kHz純音を疑似耳鳴音として開放型のイヤフォン(耳定位)で提示した。マスキングノイズはホワイトノイズを使用し、開放型ヘッドフォン(耳近接定位)およびスピーカー(距離1.8m:遠方定位)を用いてそれぞれ提示した。疑似耳鳴音を提示した状態でマスキングレベルを上げてゆき、疑似耳鳴音が完全にマスキングされた状態からマスキングレベルを下げ、疑似耳鳴音を認知した時点でのマスキングノイズの音圧を、被験者と同条件に設置したダミーヘッド内蔵マイクにて計測し、マスキングに必要な音圧レベルとした。 右耳の聴力閾値上15dB、20dB、25dBの3音圧を疑似耳鳴の提示音圧とした際の、疑似耳鳴音をマスキングするのに必要な音圧は、閾値+15dBではヘッドフォンで平均48.0dB、スピーカーで平均46.4dB、閾値+20dBではヘッドフォンで平均47.1dB、スピーカーで平均43.9dB、閾値+25dBではヘッドフォンで平均51.2dB、スピーカーで平均50.3dBであった。疑似耳鳴音が閾値+15dBと閾値+20dBでは、マスキングに必要な音圧はスピーカーがヘッドフォンに比し有意に低かった。 この結果から、耳鳴のマスキングには音源定位の異なる音の方が効果が高い可能性が考えられる。定位が異なることで、より耳鳴から意識が遠ざかることがその理由ではないかと推察している。
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