Auditory Neutopathyは、「音は聴こえるが何を言っているのか全く聞き取れない」という症状を呈する。会話が困難となることから生活への支障が大きい疾患である。通常の難聴と異なり補聴器の効果に乏しく、現時点では有効な対策が見つかっていない。近年の研究では従来考えられていたより頻度が高いこともわかってきた。 本研究では、Auditory Neuropathyにおける語音聴取能低下の原因が、様々な音の中から必要な周波数の音を抽出する能力である「周波数選択性」の低下にあると考え、周波数選択性を評価する新たな検査法として「聴覚フィルタ」の測定を行い、検討した。 最終年度である平成27年度には、Auditory Neuropathy症例の他に、他の原因による後迷路性難聴症例に対しても聴覚フィルタの測定を行った。その結果、いずれの症例のどの周波数帯域においても聴覚フィルタの幅の拡大はみられず、正常例での検査結果と比較しても有意な差を認めなかった。 以上の結果から、Auditory Neuropathyをはじめとする後迷路性難聴では周波数選択性は低下しないことが示された。しかしAuditory Neuropathyで語音聴取能が低下する事実は残り、蝸牛神経が十分な情報を伝達しきれないことが語音聴取能低下の要因であるとする仮説自体は否定されていない。今後は周波数選択性以外の聴覚機能の検討を行い、これらの症例に対する有効な補聴手段の開発を目指していきたい。
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