平成27年度は日本人難聴患者の中でOTOF遺伝子変異患者におけるOAEの経時的変化に関する検討として、OAEが経時的に消失していくメカニズムとして、長期にわたり求心性刺激がなされないことにより、廃用性に外有毛細胞の機能が失われる事によると仮定し、OTOF遺伝子変異が同定された症例の中で、人工内耳装用者は4例(8耳)に対して術前、術後半年、術後1年、術後2年でのOAEを測定し、上記仮説の正否を検討した。術前のOAE反応があったものは7耳(1耳は不明)、術後半年で反応ありが0耳(1耳は不明)、術後1年で反応ありが0耳(1耳は術後1年未満)、術後2年で反応ありが0耳(4耳は術後2年未満)となり、術後にOAEが保存される例は現在のところ0例であった。現時点までの検討では人工内耳挿入によるOAEの保持は得られていない。現在主流になっている低侵襲な手術法、低侵襲な電極を用いて人工内耳が行われることで内耳機能は保存されていると考えられる。今回の結果からは電極挿入後のOAEの保持は得られず、上記仮説は否定的であることが明らかとなった。 また、今年度は昨年度にtaqmann法を用いた800例に加え、更に200名のOTOF遺伝子変異のスクリーニングを行い、計1000例の難聴患者に対するOTOF遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、12例(1.2%)にp.R1939Q変異、3例(0.3%)にY474X変異を認めた。うちヘテロ例であった9例(p.R1939Qヘテロ8例、p.Y474Xヘテロ1例)に対する直接シークエンス法による解析を行ったところ、6例にもう1つのOTOF遺伝子変異を認め、確定診断に至った。日本人難聴患者に高頻度で同定される変異をスクリーニングとして優先的に解析し、ヘテロ例に関する直接シークエンスを行うことで効率的にOTOF遺伝子変異による難聴を診断する事が出来たと考える。
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