抗癌剤の投与はセロトニンの分泌を促し、5-HT3受容体が応答することによって、最終的に嘔吐を引き起こす。この経路によると抗癌剤によって分泌されるセロトニン量と嘔気・嘔吐の副作用の深刻さが比例すると考えられるが、明瞭な相関関係は報告されていない。そこで我々は直感的に、この経路の他に、抗癌剤がセロトニンの結合部位付近に結合し、5-HT3受容体の応答性を変化させる可能性があるのではないかと仮説を立て検討したところ、抗癌剤の中には5-HT3受容体に直接作用し、5-HTによる応答を抑制するもの、増強させるものがあることを見出した。 抗癌剤による嘔吐の副作用の強さは一般的に4郡に分けられるが、我々の検討した中で、嘔気のリスクが最も高い抗癌剤(リスク90%以上)やほぼ嘔気を引き起こさない抗癌剤(リスク10%以下)は全く5-HT3受容体の応答調節には関与しなかった。嘔気のリスクが10~90%、言い換えると嘔気のリスクに強い個人差がある抗癌剤で5-HT3受容体の応答を調節するものが多く見つかった。 5-HT3受容体はサブユニットAのみで構成される5-HT3A受容体とサブユニットAとBで構成される5-HT3AB受容体が主に機能的な受容体として知られている。5-HT3Bサブユニットの5’UTR領域の遺伝子多型により、5-HT3Bサブユニットの発現量はヒトよって異なる可能性が示唆されている。そこで抗癌剤による応答調節がサブユニット構成によって影響を受ける可能性があるか検討したところ、抗癌剤の中に5-HT3A受容体の応答は抑制するが、5-HT3AB受容体の応答は増強するものが見つかった。さらにその抗癌剤では5-HT3Bサブユニットの発現量が増えるほど、5-HT3AB受容体の応答を強力に促進することが明らかとなった。
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