研究課題
若手研究(B)
気道上皮は、常に多くの病原体にさらされており宿主生体防御の最前線に位置する。感染以前または直後に応答する自然免疫、および感染後に各病原体特異的に応答する獲得免疫が発達している。自然免疫の中で、宿主には存在せずかつ病原体のもつ特有の構造を認識する”パターン認識受容体”が生体防御にとって重要な役割を果たす。また隣り合う細胞と細胞を頂部で強固に結びつける細胞間接着装置‐タイト結合分子も病原体侵入を防いでおり、自然免疫の一旦を担っている。その他多くの自然免疫構成因子は、相互に関連している。逆に病原体である呼吸器ウイルス側からみると、その多くが気道上皮を標的としており、細胞内への侵入・複製・増殖・出芽を繰り返し感染拡大する。呼吸器ウイルスのうち、RSウイルスはかぜ症候群の主要な原因ウイルスであるとされるが、小児期に感染すると重症細気管支炎に至る場合もあり近年注目されている。このウイルスも気道上皮に感染するが、これまでの研究から、感染初期では鼻粘膜上皮細胞に侵入・増殖、引き続き下気道感染に進展することが考えられている。ヒト鼻粘膜上皮細胞において、ウイルスの侵入・複製・出芽には、本来細胞間接着装置であり、かつ細胞極性を保つためのタイト結合分子が関与していることが示唆されている。シグナル伝達経路の解析では、これらの反応にNF-kBが関連することが示された。本研究の目的は、NF-kB阻害剤でありすでに多くの機能性食品に利用されている”クルクミン”が、RSウイルスを含む呼吸器ウイルスに対する新規治療薬となりえるか、ヒト鼻粘膜上皮細胞を用いて検討することである。これまでに確立したヒト鼻粘膜上皮細胞へのRSウイルス感染モデルを用い、クルクミンを含む各種NF-kB阻害剤を処置したところ、ウイルス複製・出芽の抑制が生じることが本研究で明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
RSウイルスに感染した正常ヒト鼻粘膜上皮細胞に対しクルクミンを処置すると、ウイルス複製の抑制が生じることを免疫染色・メッセージおよび蛋白レベルで確認できたこと、また出芽の抑制が生じることも免疫染色および走査顕微鏡で詳細に観察できたため。さらに、遺伝子発現の網羅的解析により、ウイルス複製・出芽の抑制に関連する候補分子を特定できたため。
(今後の推進方策)(1)ケモカイン、サイトカイン発現の確認;クルクミン処置、またその他NF-kB阻害剤処置時と、ウイルス感染時におけるヒト鼻粘膜上皮細胞から産生されるケモカイン、サイトカインの変化をメッセージレベル、蛋白レベルで確認する。(2)上皮バリアの形態的、機能的解析;ウイルス感染細胞に対しクルクミン処置を行った時の上皮バリア‐対と結合の発現・機能解析を行う。すでに報告した手法(Ohkuni T, et al. Toxicol Apple Pharmacol. 2010)にて、組織学的・メッセージレベル・蛋白レベルの発現変化、およびTER、paracelluar fluxでの上皮バリア機能解析を行う。(3)クルクミンのRSウイルス発現抑制メカニズムの解析;上述の網羅的遺伝子解析の結果に基づき、クルクミンの抗ウイルス作用についてシグナル分子レベルで解析する。特に他のNF-kB阻害剤との比較を行う。(4)他のウイルスに対するクルクミンの抗ウイルス作用の有無について検討;アデノウイルスやライノウイルスなど、他の呼吸器ウイルスについても、クルクミンに抗ウイルス作用があるのか検討する。まず、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素を遺伝子導入した鼻粘膜上皮細胞への感染モデル確率を目標とする。(次年度の研究費使用計画)上述の研究方策に従い、ELISA、PCR、ウェスタンブロットに使用する抗体、免疫染色に使用する抗体、細胞培養に必要な培養液、関連学会への参加・報告・論文発表に使用する予定である。
今年度は旅費の支出が予算より少なかったため。本研究目的達成のため、サイトカイン・ケモカインの蛋白レベル測定用ELISA、またタイト結合分子やシグナル分子発現を確認するPCR、ウェスタンブロットに使用する抗体、タイト結合分子の局在を確認する等の免疫染色に使用する抗体、ヒト鼻粘膜上皮細胞培養に必要な培養液、関連学会への参加・報告・論文発表に使用する予定である。
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日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会会誌
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