超音波は気導音としては聞くことができないが、骨導として与えられると聴取可能になることが1940年代から知られていた。さらに超音波に対して音声の振幅包絡による変調を与えると、難聴者であっても元の音声が聴取できる場合があることが報告されてきた。本研究では、最重度難聴者2名(両者とも聴力検査においてスケールアウト)を対象とした1年以上にわたる骨導超音波補聴リハビリテーションを行い、定期的な語音明瞭度テストや単語了解度テストによってその効果を定量化した。そのデータを詳細に再分析したところ、選択肢が呈示される単語了解度テストでは、選択肢間のモーラ数の違いや母音パタンの違いが、単語の弁別に寄与しないことが明らかになった。難聴者が骨導超音波を介した音声を聞くとき、もとの音声とはまったく異なるものを聞いており、比較する特徴が多いほど、もとの単語と同定できなくなる可能性が考えられる。また、先行研究による人工内耳によるリハビリテーションの結果と比較したところ、骨導超音波補聴の聞こえを最大限に良くするには、人工内耳より長い期間のリハビリテーションが必要であることを示唆する結果が得られた。 当初の予定では実験参加者を増やし、トレーニング期間の統制を行うことで、人工内耳の語音明瞭度のデータと比較しやすくする予定であった。しかし、視覚と聴覚の両方を使うことで聞こえが向上することから、視線の移動に付随するマイクロフォンアレイを使って目的の音声が強調されるシステムに改良することで、トレーニング開始時の聞こえを向上させることができるのではないかと考えた。より自由度の高い設定が可能なエヌエフ設計回路ブロックのファンクションジェネレータ1945と増幅器を導入し、4チャンネルのマイクロフォンアレイを使用して目的の音声を強調することを試みた。
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