哺乳類においては内耳有毛細胞(特に蝸牛有毛細胞)と内耳神経細胞の形成は発生時に限られ、出生後は内耳有毛細胞や内耳神経細胞は一度障害されると再生しないため、感音難聴の治療は不可能と考えられていた。従って、従来治療不可能とされた感音難聴を治療する唯一の手段が各種幹細胞を用いた内耳再生療法と考えられている。内耳再生に用いられる幹細胞としては、骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞や内在性内耳幹細胞などが挙げられる。今回我々はBMSCを高効率で内耳神経細胞に分化誘導し、内耳再生療法を行うことを企画した。しかしながら前年度及び前々年度で報告したように、骨髄由来間葉系幹細胞の神経系への分化誘導が血清を変えたことにより、以前のように効率的に作成出来なくなった。更に血清のlotチェックを行い、効率的に内耳神経細胞への分化誘導が可能な血清を選択するように努力したがあまり良い結果がでなかった。このため、血清を用いずに効率的に神経系への分化誘導を行えるSFEB (serum-free floating culture of embryoid body-like aggregate)法に切り替えて、神経系への分化誘導実験を行っている。SFEB法を使用する関係上、BMSCの代わりにES細胞を用いての検討を開始した。またES細胞から内耳神経細胞への分化誘導にはTlx3が重要な働きをすることが知られている。そこでTlx3陽性細胞をFACS sortにて回収するため、Tlx3のexon3と3'UTRの間にGFPをノックインしたES細胞の作成を試みた。Tlx3遺伝子座へのGFPノックイン細胞は作成したが、SFEB法にて神経系への分化誘導してもGFP陽性細胞は発現しなかった。現在その原因に関して解明を試みている。
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