緑内障は、視神経障害による視野欠損を特徴とする我が国における第1位の失明原因であり、加速する少子高齢化社会において、失明対策上最も重要な疾患である。本疾患は、高眼圧緑内障と正常眼圧緑内障に大きく分類される。高眼圧緑内障の治療に対しては眼圧を下降させる点眼剤が広く使用され、視野障害の進行をある程度遅延させることができる。が一方、我が国では全体の約7割が正常眼圧緑内障で占められることから、本疾患に対する効果的な治療薬・治療法を開発することは、世界レベルで非常に重要な研究課題である。 本研究は、各種緑内障モデル動物を用いてミトコンドリアμ-カルパイン阻害ペプチド(Tat-μCL)がより脆弱といわれる神経節細胞に対して保護効果を示すのか評価することを目的として実施した。実施した研究項目は、正常眼圧緑内障モデル動物、視神経軸索障害モデル動物、虚血モデル動物を用いて、Tat-μCLが神経節細胞死を抑制するか、および視機能の低下を抑制する否かを評価した。評価は、形態学的、生化学的、電気生理学的な手法を用いて行った。 正常眼圧緑内障モデルであるグルタミン酸輸送体(GLAST)欠損マウスにおいては、ミトコンドリアカルパインの活性化とアポトーシス誘導因子(AIF)の限定分解と核移行が観察されなかった。この結果から、GLAST欠損マウスでは、ミトコンドリアカルパインとAIFを介した網膜神経節細胞死が起こっているのではなく、それ以外の経路を介して網膜神経節細胞が変性していることが示唆された。Tat-μCLの点眼によっても網膜神経節細胞死を抑えることはできなかった。 視神経軸索障害モデルラットにおいては、Tat-μCLの点眼を施したが、網膜神経節細胞に対する保護効果は見られなかったが、高眼圧虚血モデルラットにおいては、Tat-μCLの点眼により有意に網膜神経節細胞死を抑えることができた。
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