眼底観察装置に眼球全体の収差を補正する補償光学(AO)を導入することにより高分解能の網膜形態イメージングを実現できる。AO scanning laser ophthalmoscope(SLO)を用いると、毛細血管網の中を移動する血球を直接、非侵襲的に観察することができる。本研究を通じて、毛細血管内を流れる血球成分の識別法、速度計算、流出抵抗を表すと考えられる、赤血球列の伸長率の計算法、移動体の軌跡から血管造影を造影剤なしに得られる方法論の確立がなされた。正常被験者(N)、糖尿病患者(非糖尿病網膜症患者)(DM)、糖尿病網膜症患者(DR)の3群において赤血球列の動態を調べたところ、速度はDRがDM、Nと比較して有意に速く、また、伸長率はDM、DRがNと比較して有意に小さいことがわかった。これは糖尿病では、恒常的に赤血球列の形成が起こっているために、相対的に1コずつ分離して流れる赤血球の数が少なくなっているためと想像される。伸長率は糖尿病網膜症の早期発見の手掛かりとなり得ると期待される。また、傍中心窩毛細血管網には、赤血球列が流れやすい血管(LPPs)と流れにくい血管(PGCs)が存在することが解明された。このような役割分担は、白血球や赤血球列といった大きな物体がLPPsに流入することで発生する急激な血流変化をPGCsが緩和する(relief valve)という仕組みを持つことで傍中心窩毛細血管網の安定した血流の維持に役立っていると考えられる。もし、何かの理由でPGCsが閉塞すれば、隣接するLPPsにおける流速の上昇を、LPPsの閉塞は隣接するPGCsにおける赤血球列のpluggingを誘発すると考えられ、このような役割分担の破たんが疾患におけるcapillary dropout進行の理由の一つになると想像される。
|