研究実績の概要 |
魚類などの下等脊椎動物では、網膜のグリアであるミュラー細胞が内在性の幹細胞として組織の維持、修復に関わることが知られている。哺乳類のミュラー細胞でも網膜傷害後に増殖し、神経細胞に再分化することが報告されているが、その再生能力は極めて乏しい。アルキル化剤の投与による視細胞変性モデル動物を作製し、ミュラー細胞の増殖能を解析した結果、ラットにおいては、ほぼ全てのミュラー細胞が細胞周期に進入し増殖するが神経再生前に細胞死を起こすことが明らかになった。ラットにおいて神経再生が抑制される分子機構を解明するために、視細胞変性モデルラットにおける遺伝子の発現変化をマイクロアレイを用いて解析した。傷害後のラット網膜においてNotchの発現が増加することが明らかになった。しかし、そのリガンドであるDelta-like(Dll)1, 3, 4および Jagged1, 2の発現変化は見られず、Notchの標的遺伝子であるHes1,5の発現にも全く変動が認められなかった。 最近、ゼブラフィッシュ網膜においてミュラー細胞の脱分化と神経再生を制御する重要な因子としてAcheate-scute like 1(Ascl1)が報告されている。Ascl1は、発生期の網膜幹細胞に発現してNotchリガンドのDll1, 3, 4の転写を活性化することが報告されている。そこで、初代培養ミュラー細胞にAscl1を遺伝子導入した結果Jagged2およびDll3の発現が増加することが明らかになった。しかし、予想に反してNotchの標的遺伝子であるHes1,5の発現変化は見られなかった。現在、活性型Notchの遺伝子導入による網膜再生能の変化を検討している。
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