最終年度である平成27年度は、Wnt3aとEGFの下流で上皮細胞の管腔形態形成に関わる遺伝子P2Y2Rの包括的な機能解析をまとめ、以下の成果を得ている。 ①ラット腸管正常上皮細胞株IEC6細胞が三次元基質中において、Wnt3aとEGF (Wnt3a/EGF)の共刺激によって分岐管腔構造を形成し、DNAマイクロアレイ解析からWnt3a/EGFによって協調的に発現誘導される標的遺伝子P2Y2Rを同定した。P2Y2Rは細胞外ATPやUTPをリガンドとする7回膜貫通型のG蛋白質共役型受容体である。IEC6細胞でP2Y2Rを発現抑制するとWnt3a/EGF依存的な管腔形成が抑制され、P2Y2Rの安定発現株ではEGF単独存在下で管腔形成を認めた。しかし、ATPはWnt3a/EGF依存性の管腔形成に影響しなかった。P2Y2Rは細胞外領域にインテグリン結合RGD(ラットではQGD)配列を有し、αvβ3またはαvβ5インテグリンとの相互作用が報告されている。IEC6細胞で、P2Y2Rのインテグリン非結合変異体の発現は管腔形成を誘導しなかったが、ATP/UTP不応性変異体は管腔形成を誘導した。また、αvβ3インテグリンの特異的阻害剤であるRGDFVによる接着阻害は、IEC6細胞に対してP2Y2Rの発現と同様の管腔形成を誘導した。したがって、P2Y2Rはインテグリンと結合することによりIEC6細胞の管腔構造形成に関与することが示唆された。②これらの成果を第16回欧州小児外科学会で口頭発表し、2015年6月のJ Cell Sci.に論文発表した。 本研究成果は、種々の管腔臓器における発生と再生の仕組みの解明だけでなく、WntとEGFシグナルの異常活性化による上皮管腔構造の破綻が種々のヒトがんで認められることから、P2Y2Rの発現が発がんとの関連が示唆され、がんの病態理解につながることも期待される。
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