研究課題
若手研究(B)
約500の神経芽腫症例の凍結組織と正常体細胞のペアと約20の細胞株を対象とした。本年度は、テロメア長を測定し、テロメアが明らかに正常範囲以上(>15kb)に伸長している11検体を中心に以下の検討を行った。サザンブロット法による二本鎖テロメア長の測定に加え、オリゴプローブを用いた液相ハイブリによる一本鎖突出長測定を行ったところ、一本鎖長の伸長は認められなかった。テロメアFISH法でのテロメアシグナルは強く、再構成を認める細胞があった。これらの症例の、DAXXとATRX 遺伝子検索を次世代シーケンサー行った、ATRX遺伝子のエクソン上の変異を9例、DAXX遺伝子変異を1例(2塩基の欠失)に認めた。上これらの遺伝子に対して見出された変異をサンガー法にて確認するとともに、その他の部位の多型については、それぞれの遺伝子で30、20箇所程度認められ、多型についてもその関与も検討した。ついで、DAXX/ATRX 遺伝子発現、DAXX/ATRXタンパクに対する抗体を用いて免疫組織染色を行い、テロメアが伸長した腫瘍とそれ以外の腫瘍の発現レベルと遺伝子変異・欠失、テロメア長との関連を検索したところ、これらの変異を認めた腫瘍では、これらの淡白の発現をみとめなかった。臨床病理因子との関連を検討として、 DAXX/ATRX遺伝子変化やこれらの関連遺伝子の異常の有無、さらに、DAXX/ATRX発現の有無と臨床病理学的因子との関連を検討したところ、年長時発症例、進行例、MYCN非増幅例にDAXX/ATRX変異や発現低下が認められ、さらに生存期間は2年以上であるが、その後に再発あるいは進行し死亡にいたった症例も少なくなく、長期予後は不良であった。現在、ATRX遺伝子の欠失についてMLPA(multiple ligation probe assay)等で検討しており、より詳細な検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
計画時は約800例を対象として行うこととしていたが、正常と腫瘍がペアで存在する症例が約500例であったため、これらを対象として行った。ATRX遺伝子には同様の遺伝子配列がゲノム上に存在し、次世代シークエンサー解析での変異解析で変異のデータが得られなかったがソフトを改変して対応した。また、ATRA遺伝子では、最近、大きな欠失が報告され、次世代シークエンスでは検出できない可能性も示唆され、MLPA法を新たに取り入れて検討することとなり、一部当初との異なった方向で検討を進めている。また、テロメアが短縮、正常長の症例に対する検討が一部残ってはいるが、上記の判定をした。
テロメア長とDAXX/ATRX 遺伝子変異、遺伝発現の関連の検討について、テロメア長から短縮、正常範囲、伸長の3群に分類して検討を加える。DAXX/ATRX遺伝子発現の検討:リアルタイムPCRで両遺伝子のmRNA発現レベルを、免疫組織染色でタンパク発現を測定し、3群間の差を検討する。さらに、テロメア長について腫瘍内ヘテロ性の検討を行う。特に、テロメアFISH法で個々の細胞のテロメア長を、現有の共焦点顕微鏡とインセルアナライザーを用いて測定する。DAXX/ATRX遺伝子変異や欠失が見出された症例を、デジタルPCRにて変異・欠失を有している細胞を見出し、その比率を算定する。DAXX/ATRX抗体を用いた免疫組織染色で、腫瘍内のheterogeneityを検索し、現有のレーザーマイクロディセクション装置で、発現のない腫瘍細胞と発現細胞を分取し、これらの2遺伝子の変異の有無とタンパク発現量について検討する。また、正常細胞からクローニングしたDAXX/ATRX遺伝子テロメアを伸長した細胞株または遺伝子変異のある細胞株に導入し、変化を観察する。一方、DAXX/ATRX遺伝子変異がない細胞株にsiRNAを導入して、DAXX/ATRX遺伝子とテロメア長の変化あるいは腫瘍細胞の変化を検討する。以上から、DAXX/ATRX遺伝子変化や発現の有無とテロメラーゼ非依存性テロメア伸長反応(ALT)、悪性度、臨床病理学的因子との関連を検討し、ALT活性化腫瘍の特徴を明らかにする。さらに、神経芽腫におけるテロメア伸長機序とくにそのメカニズムとしてのDAXX/ATRX遺伝子の関与について検討し、これらに対する分子標的療法の可能性を検討する。
今回目的としているATRX遺伝子は35個のエクソンを有し300Kbを超える巨大な遺伝子であり、通常のシークエンスではなく次世代シークエンサーにての解析を計画したが、ゲノム上に同様の遺伝子配列が偽遺伝子として存在することから、次世代シークエンサーでの異常の検出に支障をきたし、偽遺伝子部位を除くためにソフトの改変を行った。また、ATRX遺伝子は広範囲な欠失を認める症例があることが見出され、新たにMLPA (Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)法を導入し、欠失範囲の同定を行うことに変更した。そのためにATRX遺伝子解析の実施が予定より遅れ、それらの関連の研究を次年度に持ち越した。ATRX遺伝子変異の検索は、解析用ソフトの改変を行い、解析が可能となった時点で、次世代シークエンサーにて解析を再開する。異常が見出された部位については従来のサンガー法によるシークエンスを併用してそれらの異常について確証を得る。また、新たにMLPA法を導入して、広範囲欠失を同定し、上記の次世代シーケンサーの結果と照合して、ATRX遺伝子の変異や欠失について把握する。そのデータを用いて、平成26年度中に、平成25年度に予定していたテロメア長との関連、DAXX/ATRX抗体による発現レベルとの関連を含めて検討し、さらに腫瘍内の腫瘍内ヘテロ性の検討、DAXX/ATRX遺伝子の機能解析の研究を行う計画である。
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