本研究は顕微鏡下に吻合可能な直径0.5-1.0mmの血管において、近赤外線が吻合血管の攣縮を予防できるかどうか明らかにすることを目的に研究を開始した。 まず、ラットの腹部に左右対称な2つの遊離皮弁を作成して血管を切り離し、切り離した血管に顕微鏡下で吻合して元の位置に縫い付け、一側の血管吻合部に近赤外線を照射して、皮弁の生着範囲が変化するかどうか調べた。照射側と非照射側で、皮弁の生着範囲に差を認めなかった。 次いで、同じモデルで一側の血管吻合部に近赤外線を照射し、両側の血管吻合部をepinephrineで攣縮させて、照射側で吻合血管の攣縮を予防できるかどうか調べた。照射側で皮弁の生着範囲が延長することを期待したが、使用した実験系では生着範囲のばらつきが大きく、近赤外線照射の効果を評価できる状況には至らなかった。 そこで実験系を遊離皮弁モデルから有茎皮弁モデルに変更し、ラットの背部に左右対称な2つの有茎皮弁を作成して、一側の血管茎に近赤外線を照射して、皮弁の生着範囲が変化するかどうか調べた。この3つめのモデルにおいても、血管茎への近赤外線照射の効果は確認できなかったが、同じモデルで血管茎ではなく皮島に照射したところ、照射側で皮弁の生着範囲が延長した。さらに、左右対称な2つの有茎皮弁ではなく、2つの血管茎を持つ左右対称な1つの有茎島状皮弁を作成して、皮島の片側半分に近赤外線を照射したところ、照射側で皮弁の生着範囲が延長した。 当初の目的とは異なるが、近赤外線が有茎皮弁の生着範囲を延長することを明らかにできた。また、使用した実験モデルは近赤外線以外の薬剤、サイトカイン、細胞においても、皮弁生着範囲の延長効果を評価することが可能で、今後の皮弁生着範囲の研究に有用なモデルを確立することができた。以上の結果をオープンアクセスのePlastyに投稿し、査読中である。
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