慢性静脈不全症(CVI)は罹患率の高い疾患であり、これに伴って生じる静脈性潰瘍はしばしば難治性となる。近年その病態が徐々に解明されつつあり、組織の酸素欠乏だけではなく、局所の炎症が潰瘍の形成や悪化に大きく関係していることが分かってきた。これに対する免疫制御を目的とした治療が期待されているが、臨床応用に至っているものはない。本研究では脂肪由来幹細胞(ADSCs)を用いて、局所の炎症を抑えることが可能かについてラットの静脈潰瘍モデルを用いて研究を行った。動物モデルはSG Lalka.ら(JSR 1999)によるCVIモデルを改変して行っており、下大静脈及び両総腸骨静脈を結紮することにより下肢の浮腫状態を作り出し、さらに大腿部にダーマパンチで創傷を作成することにより静脈潰瘍モデルとしている。これにより、静脈圧が約1ヶ月程度上昇し、潰瘍の治癒が通常の創傷のみのモデルに比べ遅延することが確認され、また病理学的に静脈潰瘍モデルでは局所の炎症が継続していることも確認された。これらの成果により静脈潰瘍モデルが確立できたと考えている。同時にラットから脂肪由来幹細胞の抽出(Ma、Proc Natl Acad Sci U S A. 2012)、炎症細胞としてマクロファージ、末梢血由来単核球の抽出を行い、ADSCのこれらの細胞に及ぼす影響についての検討をフローサイトメトリーを用いて行っている。現在脂肪由来幹細胞の性質研究及び局所への投与による潰瘍の改善については引き続き検討中であるが、静脈潰瘍モデルについての成果をを論文化し、現在英文誌に投稿中である。
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