従来、狭頭症の変形は、早期癒合した縫合の成長を他の開大した縫合が代償するとされてきた。しかし今回、実際の狭頭症患者の臨床データと正常頭蓋から作成したシミュレーション・モデルによる構造解析により求められた結果の比較を行った結果、単に開大した縫合だが代償するだけでは狭頭症による本来の変形はきたさないことが分かった。本シミュレーションから得られた結果としては1.早期癒合した縫合は本来の方向には成長できなくなるが、縫合の長さを増すことで成長を代償しようとする。2.そして癒合した縫合は“隣接”する縫合を自らに引き寄せることで、成長を代償しようとする。 3.引き寄せられた縫合は、自身の本来の成長が阻害されるため、過成長することで対応する。4.さらに引き寄せられた縫合は自身の過成長を少しでも和らげようとするため、隣の縫合を引き寄せる。この反応は頭蓋全体に連鎖する。5.1つの縫合内に癒合と開存を認める場合、上記反応は開存側をメインとして起こる。そして開存部分の縫合とその隣接骨も過成長し代償するが、それは最も大きな力である。 という新しい説を立案するに至った。
また狭頭症の治療として、行われてきた術式の妥当性を、生体力学的視点から再検証した。その結果、術式と手術を行う年齢によりその後の成長を阻害する可能性が示唆された。本シミュレーションを駆使して、術前に最も術後の成長を阻害せず、なおかつ整容面にも配慮した最も良好な結果が得られる頭蓋形成を立案できるに至った。本結果は症例の10年以上に及ぶ経過を見て評価する必要がある。
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