本年度は、以下の点について実験を行った。 ①亜硝酸塩が敗血症ラットの生存率に与える影響:CLPラットに対し、生理食塩水単独を投与した群(NS群)と、NSに亜硝酸塩1mg/kgを共投与したNit群について、長時間の生存率比較を行った。Nit群における生存率は、NS群と比較して、有意な改善が認められた。 ②亜硝酸塩が敗血症ラット心筋のニトロ化ストレスに及ぼす影響:一般的に、敗血症病態における一酸化窒素の悪影響として、細胞レベルにおいては酸化ストレス亢進により産生されるO2-と一酸化窒素(NO)が反応し、その結果生じるperoxynitriteが様々な蛋白質のチロシン残基をニトロ化する作用(ニトロ化ストレス)が指摘されている。よってNOの供給源となりうる亜硝酸塩を敗血症病態に投与することは、細胞レベルではニトロ化ストレスを増大させる可能性が危惧される。我々はその点を検証するため、心筋細胞質や心筋ミトコンドリアにおけるニトロ化ストレスの指標(3-ニトロチロシン)について、ELISA法を用いて検討した。その結果、心筋細胞質および心筋ミトコンドリアの両者において、亜硝酸塩投与による3-ニトロチロシンの増大は認められなかった。以上より、前年度の結果と合わせ、CLPラットの全身レベル、臓器レベル、および細胞レベルにおいて、亜硝酸塩1mg/kg投与の安全性が確認された。 ③炎症性サイトカインの評価:敗血症における主要な病態は全身性の炎症であり、サイトカインの産生が生じる。亜硝酸塩が炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響を確認するため、CLPラットの血液中TNFα(4時間後)、IL-1βおよびIL-6(8時間後)について、ELISA法を用いて検討した。その結果、いずれの炎症性サイトカインもコントロール群と比較してCLPラットで上昇したものの、Nit群とNS群の間では有意差は認められなかった。
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