前年度に引き続き、iPS細胞から分化培養した血球系胚様体 Hematopoietic-Embryoid body (EB)を用いて敗血症下状態における血管内皮細胞への影響を検討した。前年度の研究では、Hematopoietic-EBが血管内皮細胞の整合性を保護する作用があり、これにより敗血症モデルマウスの生存率が向上している可能性を示した。また、Hematopoietic-EBがsphingosine-1-phosphate(S1P)の合成酵素の一つであるSphK2を発現していることから、S1Pがこの作用に関与する可能性を示した。 今回は、Lab-Tek Chamber上にヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を培養し、LPSで刺激した。これらの刺激によりHUVECのストレスファイバー形成は増大したが、Hematopoietic EBとの共培養により、ストレスファイバーの形成は軽減することが明らかとなった。 また、Hematopoietic-EBを培養し、LPSで刺激したところ、その培養上製中のsphingosine-1-phosphate濃度が上昇することを明らかにした。 さらに、敗血症モデルを作製するとマウス血中のS1P濃度が上昇するが、Hematopoietic-EBを投与するとS1P濃度が低下することが明らかとなった。S1Pは低濃度では血管内皮細胞の整合性を維持するのに役立つが、高濃度では逆に血管内皮細胞の整合性を破壊する。敗血症病態では、活性化血小板や赤血球から大量のS1Pが放出されることが予測される(S1P storm)。敗血症発症早期にHematopoietic-EBを投与することにより、低濃度のS1Pが敗血症の進展を抑制し、その後のS1P stormを抑制したものと考えられた。今後の敗血症治療戦略に役立つ知見と考えられる。
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