人工呼吸は患者の換気や酸素化が不十分な時に用いられるが、この人工呼吸による肺の過伸展や高濃度酸素吸入が肺傷害を引き起こす、または既存の肺傷害を増強させることがわかってきた[人工呼吸誘発肺傷害(VILI)]。VILIメカニズムの解明とVILIを予防する人工呼吸の設定を最終目標とし、本研究ではin vitroの培養細胞伸展システムを用いて、機械的伸展が肺動脈血管内皮細胞に与える影響についてPEEP[呼気終末陽圧人工呼吸]模擬伸展による遺伝子発現及びサイトカイン産生の時系列解析を行い、機械的伸展からサイトカイン産生に至るシグナル伝達経路を同定し、人工呼吸が肺障害を引き起こす過程の遺伝子発現経路を推定することを目的として研究を進めた。 肺動脈血管内皮細胞を用いて伸展実験(過伸展模擬ひずみ+PEEP)を行い、伸展とIL-6遺伝子発現量あるいはIL-6タンパク質産生量の時系列計測を行った。過伸展模擬ひずみにPEEPを加えると、細胞のIL-6タンパク質産生量、IL-6遺伝子発現量は過伸展模擬ひずみ単独の場合よりも減少することが示された。つまり、PEEPを加えることによって肺の過伸展時のIL-6タンパク質産生量、IL-6遺伝子発現を抑制できる可能性がある。さらに、このときのPEEPは①実ひずみを減らすことでIL-6タンパク質産生量、IL-6遺伝子発現を減少させたこと、②PEEP自体にIL-6タンパク質産生量、IL-6遺伝子発現の抑制効果の2つの役割があることが示唆された。次に、PEEP+過膨張模擬伸展実験における網羅的遺伝子発現解析(マイクロアレイ、リアルタイムRT-PCR)を行うと、PEEPがVILIに関係する遺伝子の発現を抑制、または、発現パターンを変化(遅延)させる可能性が示唆された。
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