近年では医師の災害現場への派遣活動、ヘリコプターやドクターカー運用が盛んに行われているが病院と異なりレントゲンやCT装置の無い災害現場、あるいは救急現場であってもいかに防ぎ得た外傷死(preventable trauma death)を防ぐかが課題となる。特に胸部外傷で頻繁に認められる外傷性気胸の病態には致命的な緊張性気胸へ移行する患者の存在が知られており、病態の早期認知により現場での適切な治療(胸腔ドレナージ)が実施できる。筆者は以前に呼吸音を記録分析できる装置を開発しているが、その装置を更に改良し、実際に現場での適応により病態の早期認知や有効性を検証することである。 初年度の平成25年度は、自作装置を屋外へ持ち出し健常者および模擬人形に対して正常呼吸音および呼吸音の減弱、または消失が記録されるか検討したが、屋外使用での問題点として周囲の騒音が大き過ぎて音響解析は困難であると判断した。早急に音響技術を持った企業(株式会社エー・アール・アイ)にノイズキャンセリング技術を組み込んだマイク及び記録解析PCソフトウェアの作成を依頼し平成25年末に試作機(騒音抑圧型聴診器)を完成したところである。この試作機は同社保有の特許技術である『高速H∞フィルタ(FHF) 』を組み込んだシステムであり、ハイパーH∞フィルタの計算量を削減し、音響系のシステム同定においても実時間実行を可能とする高速アルゴリズムとして考案された。演算量を適度な範囲に収めながら、同定性能が良いアルゴリズムを実現することを目的に開発され本研究である生体からの呼吸音と課題である騒音抑圧への可能性を期待したものである。
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