黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥脱毒素の転写調節因子であるSptAを新規に見出しており、新規転写調節因子SptAによる病原性因子の遺伝子発現調節機構の解明を目的とした。 黄色ブドウ球菌のsptA遺伝子欠損株および過剰発現株解析から、血球崩壊毒素、プロテアーゼ、免疫撹乱物質であるプロテインA、高病原性の市中感染型MRSAの病原性に関連すると考えられているPSM、さらにはバイオフィルム産生能など多種多様な黄色ブドウ球菌の病原性因子産生を制御する事を明らかにした。黄色ブドウ球菌の病原性因子産生は菌密度依存的な遺伝子発現制御を担うAgr systemにより制御されている。そこでSptAとAgr systemの関連を解析するため、sptAとagr遺伝子およびAgr systemのレギュレーター分子であるRNAⅢとの二重遺伝子欠損株を作製し解析した。その結果、新規転写調節因子SptAはagrおよびRNAⅢの両遺伝子群の転写を抑制することで黄色ブドウ球菌の病原性因子産生をグローバルに制御することが強く示唆された。AgrおよびRNAⅢの両遺伝子群を抑制する因子はこれまでに報告がない。 さらにSptAはN-アセチルムラミン酸の代謝遺伝子群の転写抑制因子であるMurRと、特に基質認識において重要なSISドメインで高い同一性を有することから、アミノ酸変異を導入し解析した結果、184番目のスレオニン及び191番目のグルタミン酸がSptAの基質認識及び転写抑制因子としての機能に重要であることを明らかにした。また、N-アセチルムラミン酸代謝の遺伝子欠損株の解析から、SptAはN-アセチルムラミン6リン酸量に依存した病原性因子の産生制御が強く示唆された。本研究成果は新規な黄色ブドウ球菌の病原性因子制御機構を提唱するものである。
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