研究課題/領域番号 |
25861749
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
松尾 美樹 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (20527048)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 黄色ブドウ球菌 / バクテリオシン / 二成分制御系 / 口腔内定着阻害 |
研究概要 |
本研究は黄色ブドウ球菌の口腔内定着を阻害する新規抗菌性因子の探索を目的にしている。H25年度は、主に黄色ブドウ球菌の生育を阻害する口腔内細菌の分離・同定を行った。検証の結果、口腔内から分離した96株のうち、34株にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) の生育阻害を認めた。さらに、34株のうち15株は、MRSA に対し特に強い生育阻害を認めたため、菌ならびに抗菌性因子の同定を行った。その結果、抗菌性因子は過酸化水素であること、菌はStreptococcus parasanguinisであることが示唆された。 一方、黄色ブドウ球菌のバクテリオシン耐性機構についても新しい知見を得た。MRSA であるMW2株のもつ、16組の情報伝達システムである二成分制御系因子(TCS) のうち、3組の TCS が、バクテリオシンのうち、ランチオニン環という異常アミノ酸を含む特殊な構造体を保有するランチビオティクスに対する耐性獲得に関与していることが明らかになった。3組の TCS のうち、Bce システムは枯草菌の産生する抗菌性タンパクであるバシトラシン耐性獲得への関与をすでに報告している。今回の結果から、Bce システムはバシトラシンに加え、ライティビオティクス耐性獲得にも関与することを明らかにした。 口腔内からはランティビオティクス産生能を持つStreptococcus属が複数分離されており、今後の検証で口腔内から分離したランティビオティクス産生菌と、黄色ブドウ球菌のBce システムを不活性化する因子を同時に投与することで、黄色ブドウ球菌のランティビオティクス感受性が高まり、その結果黄色ブドウ球菌の口腔内定着の阻害が可能になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度は、主に黄色ブドウ球菌の生育を阻害する口腔内細菌の分離・同定を行った。検証の結果、口腔内から分離した96株のうち、34株にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) の生育阻害を認めた。さらに、34株のうち15株は、MRSA に対し特に強い生育阻害を認めたため、菌ならびに抗菌性因子の同定を行った。その結果、過酸化水素産生能を持つ Streptococcus parasanguinisが、黄色ブドウ球菌の口腔内定着に強く関与していることを見出した。 また、黄色ブドウ球菌の細菌が産生する抗菌性因子であるバクテリオシン耐性機構の解明が、より効果的な黄色ブドウ球菌の口腔内定着阻害につながると考えた。そこで、細菌特有の情報伝達系である二成分制御系 (TCS) に着目した。TCS は、外環境の変化を感知し、適応するシステムとして知られており、申請者はStreptococcus mutansの持つ TCS が、種々のバクテリオシン耐性ならびに産生性に関与していることをすでに報告している。申請者の所属する研究室では、MRSA であるMW2株において必須のTCSを除くすべてのTCS破壊株をすでに作製済みであったことから、種々のバクテリオシン産生菌の産生するバクテリオシンと TCS の関連性を検証した。その結果、3組の TCS がランティビオティクス耐性に関与しており、そのうち1組の TCS (Bce システム) が耐性獲得の本体であり、さらに、本TCSは複数のバクテリオシンに対する耐性を一手に担っていることを明らかにした。以上のことより、おおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度の実験結果から、口腔内に常在するS. parasanguinis が黄色ブドウ球菌の口腔内定着を阻害することが分かった。S. parasanguinis の同定は、16S rRNA を標的にしたシーケンスから得られた情報である。しかし、これまでに、S. parasanguinis を同定する方法が確立されていない。そこで、分離菌のさらなる正確な同定のために、定量性 PCR を用いたS. parasanguinis の同定方法の確立を行う予定である。提唱性PCRによる同定豊富尾を確立することで、今後黄色ブドウ球菌が口腔内に定着しているヒト、非定着のヒトから各々サンプルを回収し、黄色ブドウ球菌の口腔内定着とS. parasanguinis の菌量との間に相関関係が成り立つか否かを検証することも可能である。本検証を行いつつ、S. parasanguinisをマウスの口腔内に定着後、黄色ブドウ球菌が定着できるかどうかの検証も行うことで、本菌がプロバイオティクス応用への可能性を検討する。 また、黄色ブドウ球菌のバクテリオシン耐性獲得に、TCS システムの一つである Bce システムの関与が明らかになった。TCS のセンサーは膜表層に局在し、この部位は各々のTCSで多様性を持つ領域であることが報告されている。そこで、Bce のセンサータンパクのうち、活性化に重要な領域を絞り込み、この領域に結合し、バクテリオシンによる活性化を阻害するペプチドの設計を行うことを考えている。本ペプチドを前処理し、ランチビオティクス産生菌と黄色ブドウ球菌を共培養させた際、黄色ブドウ球菌の生育が阻害されるかどうか、vitroの共培養試験、vivoの動物実験により、検証を行いたい。
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