研究概要 |
創傷の治癒過程をコントロールする事が出来れば、患者の通院期間の短縮や感染リスクの低減など患者のQuality of Life (QOL)の向上につながる。組織が傷害されると、線維芽細胞は葉状仮足を形成し、創傷部位へ移動する。この仮足形成にイノシトールリン脂質のPI(4,5)P2からPI(3,4,5)P3への代謝が関与している。本研究において我々は、新規のイノシトールリン脂質結合性タンパク質として同定されたPhospholipase C (PLC) related catalytically inactive protein (PRIP)の細胞移動における関与を確認するため、PRIPノックアウト(KO)マウス胎仔由来線維芽細胞(MEF)の運動能を2D-chemotaxis assayによって調べた。PRIP-KO MEFでは、血小板由来増殖因子(PDGF)誘導性の細胞移動が著しく促進され、葉状仮足の形成も亢進した。この葉状仮足形成の亢進は、PRIP-DKO MEFにPRIP1を戻し発現させることで、wild typeで観察された表現型へと回復させることができた。さらに、PI(4,5)P2の局在をEGFP-PLCδ1-PH [PI(4,5)P2の特異的プローブ]を細胞に発現させ、確認したところ、PRIP-KO MEFで、細胞膜におけるPI(4,5)P2量が恒常的に減少していることが明らかとなった。その一方で、PDGF受容体の発現や、PDGF刺激誘導性の自己リン酸化、細胞内シグナリング(ERKやAktのリン酸化)の程度は変化しなかった。これらの結果は、PRIPが細胞膜におけるPI(4,5)P2代謝を抑制することで、仮足形成、細胞移動を負に制御している可能性を示唆している。
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