本研究では、細胞の最も普遍的機能の1つである開口分泌におけるリン酸化制御と PRIP の役割の解明を目指した。 初年度、本研究に必要なPRIP、PP1、PP2、SNARE 等発現コンストラクトなどの調製するとともに、開口分泌実験のモデルとしての PC12 細胞の各種 PRIP 変異体を安定的に発現する細胞株あるいはSNARE分子を安定的にノックダウンする細胞株の作製を行った。組換え体として精製したSNARE分子を用いた試験管内実験とPC12細胞を用いて免疫沈降実験や細胞内SNARE複合体形成実験が行えるような実験系を整えた。開口分泌における膜融合過程に必須の分子複合体を構成する SNAP-25がプロテインキナーゼA(PKA) によってリン酸化されるとSNARE 複合体を形成し難くなったことが明らかになった。加えてPKAによりSNAP-25をリン酸化される部位は138番のスレオニン残基であることが分かった。続いてSNAP-25を安定的にノックダウンした細胞株を用いて、インタクトの状態で高K+溶液やリガンド刺激による[3H]ノルアドレナリン(NA)の放出を測定した。SNAP-25をノックダウンすると細胞外に放出された[3H]NA量が明らかに減ったが、forskolin (FSK)の刺激によって増強された[3H]NAの分泌はSNAP-25欠損によってさらに上昇した。野生型SNAP-25がこの表現型をレスキューできたが、リン酸化されない変異型SNAP-25(T138A)では再現できなかった。一方、組換え体として精製したタンパク質を用いてPRIPとSNARE 分子及びSNARE関連分子との試験管内結合実験も行い、PRIPがC2-domain を介してt-SNARE分子と結合し、SNARE関連分子synaptotagmin-1ともカルシウム依存的に結合することがわかった。 以上の結果から、SNAP-25のリン酸化状態がSNARE複合体の形成とPC12細胞からのノルアドレナリンの分泌に影響し、タンパク質リン酸化シグナルによる開口分泌の調節に関与することがわかった。
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